モコの奮闘日記
紗織《さおり》
モコの奮闘日記
モコは、10歳の雄のトイ・プードル。
お家とお母さんが大好き。
性格は、優しくて、怖がりで甘えん坊。
祖父がコンクールで優勝をしていて、その美しい容姿の血を引き継いだモコも、足が長くて小顔のモデル体型。
でもコンテストのような大勢の人がいる場所で、一人でジッとして評価されるのを待つ事なんて、彼には怖くてとても出来なそう…。
そんなモコだから、安全なお家が一番好き。
今日も散歩から帰って来て、のんびりとお昼寝をしています。
大変、大変。
お母さんに何かトラブルが発生したみたい。
「えっ、開かない!どうしよう。
モコ、モコ~。」
困ったお母さんが、唯一家にいるモコに助けを求めています。
先程、洗濯物を干しにお庭に出たお母さん。
両手に洗濯物をいっぱい持って、ちょっと大変だった彼女は、網戸を後ろ手で急いで閉めました。
なんとその拍子に、窓枠に付いていた網戸の鍵がちょっと回ってしまい、オートロックのような状況になってしまったのです。
お母さんが洗濯物を干し終えて、家に入ろうとしたら、鍵がちょっと引っ掛かっていて網戸が開きません。
(ママが僕を呼んでいる。)
モコは声のした方向にパッと顔を向けました。
(すぐにママの所に行かなきゃ。
でも、どうしたんだろう…、ちょっと声の様子が変だったぞ?)
モコは、お母さんの慌てた
「あっ、モコ。
来てくれてありがとう。
あのね、網戸の鍵が閉まっちゃったの。
モコ、中から開けられないかな?」
お母さんは、網戸の鍵がある場所を指差しながら、モコに話し掛けてきました。
「ちょっとチンチンの姿勢になれば、鍵に前足が届くと思うのだけれど…。
ほらっ、モコ。
ココをちょっと触ってごらん。
回るかもしれないからさ…。」
お母さんは身振り手振りをしながら、なんとかモコに鍵を触るように優しく話し掛けています。
(お母さん、どうしてお家に入って来ないんだろう?
いつもお庭に出ても、すぐに帰って来てくれるのに…。
笑って僕に何か言ってるぞ。
何だろう…?)
「ワン。
ワン、ワン。」
(ママ、何を遊んでいるの?
もうそろそろ中に入って来て。)
モコは、尻尾をフリフリして、笑顔で網戸の周りをゆっくりと歩きながら鳴いています。
「うん、うん。
モコ、喜んでお出迎えをしてくれて、ありがとう。
ママもお家に入りたいな。
モコ、開・け・て。」
ママは笑顔でモコにお願いを続けました。
「ワ、ワ、ワン…!」
(ママ、ママ、どうしたの?
なんでいつまでも中に入って来ないの…?)
いつまでも外で立っているお母さんの様子を見て、モコが動揺し始めました。
シッポをピンと立てて、網戸の周りをクルクルと早足で歩き回ると、少し興奮気味に吠えています。
「モコ、モコ。
そんなに吠えたらご近所に迷惑だよ。
モコちゃん、シィー。」
お母さんは、モコを落ち着かせようと、右手の人差し指を口に当てながら言いました。
「う~ん、やっぱりモコに開けてもらうのは無理か…。
どうしようかなぁ…。
でも多分開いているのは、この網戸だけだったよなぁ…。」
お母さんは、もしかしたらの勘違いを期待して、玄関や窓で、鍵の掛かっていない場所が無いかを探し始めました。
(アレ、アレ?
ママが何処かに行っちゃう…。)
モコは、慌てて網戸の近くに駆け寄ると、お母さんの歩いて行く後ろ姿を見つめていました。
(ママ、お出掛けなの?
なんでキョロキョロしながら歩いているのかな…。
どうしたんだろう?
あれっ?隣のお部屋の窓の前で止まった。
よし、確かめに行くぞ。)
モコは、お母さんが立っている窓の部屋に掛けて行きました。
部屋に入って窓を見てみると、外にお母さんが立っています。
鍵を見て、やっぱり掛かっているのを確認して、ちょっとガッカリしていたお母さん。
でも部屋の中のモコと目が合うと、笑顔で手を振りました。
「ワン。」
(ママ~。)
モコも尻尾を振って、お母さんに挨拶をしました。
でもお母さんは、他の窓や玄関を確認する為に、直ぐに移動を始めてしまいました。
(あれれっ?
窓の前からまた何処かに行っちゃった。
何処に行ったのかな?
もうママの姿が見えないや…。
ムムム…。)
モコは、その場でジッと立ち止まりながら考え始めました。
(分かったぞ!
やっぱりママは、お出掛けだったんだ!
そっかぁ…、じゃあ僕はお留守番なんだ…。
あぁ~、ションボリだな…。)
モコは、がっかりして尻尾がすっかり下がってしまいました。
そして自分のクッションの所までトボトボと歩いて行くと、そこにペタンと座りました。
(…そう言えば、お昼寝の時間だった。
あぁ~、ママの隣で寝たかったけれどしょうがないか…。
もう一人で寝よう。)
モコは、ペタンと伏せの姿勢になると、前足をクロスさせてそれを枕にして、クッションで一人寂しく眠る事にしました。
(やっぱりどこも開いていなかったわね。
このまま誰かが帰って来るまで、私はずっと庭にいるのかしら?
でもそれって、夕方までずっと庭に居るって事じゃない。
…さすがにそれは嫌だわ。
でも、お財布もスマホも何にも持っていないから、出掛けて外で時間を潰すこともできないし…。
さて、どうしましょう…。)
お母さんは、家の一階の入り口を窓も扉も全部確認してみたけれど、鍵がかかっていて途方に暮れていました。
(あらっ。もうモコがお昼寝を始めているわ。
いいなぁ、モコ。
家族がお出掛けをする時、いつもすごく寂しがっているけれど、やっぱりすぐに寝ちゃうんだね…。
本当に平和な子だわ。)
モコが自分を見つけてまた興奮しないように、そっと部屋の様子を見たお母さん。
部屋の中でモコが寝ているのを確認しました。
こうしてモコの寝姿を見て元気エネルギーを注入してから笑顔になると、どうやって自分が部屋に戻れるのかを真剣に考え始めました。
(そうだ!もしかして!)
お母さんが
「ガタタタタッ!」
突然の物音にモコが飛び起きました。
そして音のする網戸の方へ掛けて行くと、そこには…!?
「ガタンッ」
「成功!上手く言ったわ。」
なんとお母さんは、網戸が外れないかを試して、見事に窓枠から外しました。
「ワンっ♪」
(ママっ♪)
モコは、お母さんの姿を見つけて、嬉しくなりました。
「ワン、ワン、ワン…。」
(ママ、お帰りなさい。僕嬉しいよ♪)
モコは尻尾をフリフリしながら、網戸の外れた全開の窓から庭のお母さんの足元に飛び出して、お迎えをしました。
「モコ、モコ、今から網戸を元通りに
足元にモコが居たら危ないじゃない。」
お母さんは、鍵がかからないように元の位置に回して、モコにも気を付けながら網戸を入れ直しました。
こうして随分苦労をしましたが、仲良く二人でお家の中に入る事が出来ました。
「はぁ~、ようやくお家に入れたね。
ただいま、モコ。」
お母さんは笑顔で、足元にいたモコを抱っこしました。
モコは、嬉しそうにお母さんの顎をペロペロと舐めています。
(ママ、お出掛けから帰って来るの、早かったね。
僕寂しかったけれど、ちゃんといい子で頑張ったんだよ。)
モコとお母さんは、その後リビングで仲良く一休みをしました。
それからしばらくたったある日。
今日のモコは、一人でお留守番中。
お母さんは、家族が出掛けた後にお洒落をすると、横浜までお買い物に出掛けました。
今日のお天気は、強風の曇り空。
どんよりとしたお空の雲は重たくて、部屋の中もちょっぴり薄暗い。
こんな天気の日のお留守番に、モコの気持ちは、いつも以上に沈んでいました。
「ビュ~…、バタバタ…」
強風で、お家の周りの木々が
色々な音がする日は、モコは怖くて落ち着きません。
(なんだかあんまり眠れない…)
モコは、何かの音がする度に、目を覚まします。
「ガッターン。」
お庭で何かが倒れる音がしました。
モコは、ビクッとして頭を上げると、庭の窓の方に歩いて様子を見に行きました。
(何だろう…?)
お庭の様子を見たけれど、何だかよくわかりませんでした…。
(でも何も起きていないみたいだから…、うん、きっと大丈夫。)
モコは自分を納得させて、またクッションまで戻ってきました。
モコは、何かの音がする度にその音がした場所の近くまで歩いて行き、様子を確認していました。
そして納得すると、ちゃんとクッションに戻ってきます。
モコは、怖さを忘れるように何度も寝る姿勢を変えながら、少しづつ眠っては昼寝を続けていました。
「ガタガタッ。」
今度は、玄関の外で物音が!
(これは、門扉の音だ!)
「ワンワン!」
(ママ、お帰りなさい。)
モコは、玄関の前まで急いで走って行き、お出迎えの準備。
キチンとお座りの姿勢で待っています。
「ガチャッ。」
「ワン、ワン、ワンッ…!」
(あれ?ママがなかなか帰って来ないぞ、どうしたの…。)
…でも、どうしたのでしょう。いつまで待っても、結局扉は開きませんでした。
(もう、ガッカリしちゃうな…。)
モコは、玄関の前からトボトボと移動して、またクッションに戻りました。
「ガタガタッ。」
「ワン、ワン。」
「カチャン。」
「モコ、ただいま~。」
お母さんが笑顔で玄関から入ってきます。
モコはお座りの姿勢で嬉しそうにシッポをフリフリしてお出迎えをしています。
「モコ、今日も良い子でお出迎えをありがとう。」
ママは、いつものようにお出迎えをしてくれたモコに、嬉しそうに挨拶をしています。
あれ、あれっ?
皆さんは、もう気が付きましたか?
そうです、さっきのあの音。
「ガタガタッ。」
この音は、玄関の前にある門扉が開く時にする音。
モコは、ちゃんとその音を聞き分けて、お出迎えに玄関まで走っています。
「カチャン。」
この音は、お母さんが玄関の鍵を開けた時の音。
じゃあ、モコが最初に聞いた
「ガチャッ。」は、一体何の音だったのでしょうか?
あの音は、誰かが扉を開けようとノブを回してみた音。
もちろん鍵がかかっていたので、玄関の扉は開きませんでした。
そして何処からか家に入ってやろうとした時、聞こえて来たのは、あのモコの声。
モコは、お家の中から一生懸命鳴いていました。
外に誰がいるのか分からなくて不安だったからです。
でもそのモコの声のおかげで、この人物は犬がいて厄介だからと、結局静かに家から離れて行ったのです。
そうです。
とても怖がりなモコですが、ちゃんとお家を守っているんです。
がんばったね、モコ!
モコの奮闘日記 紗織《さおり》 @SaoriH
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