連敗プロ棋士と最強で幼なじみの女流棋士 ~弱くてもタイトル獲得目指します!~
ゆーたんご
プロローグ
「もうっ! なんでその手を指しちゃうのよ!」
僕が一人暮らしをしているボロアパートの一室に、大きな声が響き渡る。
驚いた僕――大井輝(おおいてる)は、将棋盤から目を離して声の主を見た。
目線の先には1人の美少女、幼馴染の小川愛奈(おがわあいな)ちゃんが難しい顔をしながら頭を抱えていた。
腰まで届く艶やかなくせのない黒い髪に、切れ長でぱっちりとしている大きな瞳。制服のブレザー越しにもわかる大きな胸に、モデルのようなスレンダー体型。
彼女を見た人のほとんどが美人だと答えるであろうその容姿に、自然と見惚れてしまう。
「ちょっと聞いてるの!?」
「う、うん。聞いてるよ」
「じゃあなんでこの手を指したのか説明して?」
さっきまで僕が注視していた将棋盤をトントンと指で叩く。
美少女がにっこりと笑っているのに、可愛いより恐ろしく見えてしまうのはなぜだろう?
「え……だってこの手にはこれって……定跡じゃないの?」
「とっくの昔に最善手が変わったの! AIができてから定跡が変わったのよ」
「そうだったんだ……奨励会の時はスマホとか触らないようにしてたから知らなかったよ」
「よくそれで三段リーグを一期で抜けれたわね」
「まあ僕って直感型だから? 対局中に閃くって言うか――」
「だからプロになって勝てなくなったのよ……てか、それ自慢のつもり?」
「ごめんなさい……」
本当のことを言っただけなのに鋭い眼光で睨まれてしまった……。
額に手を当てて呆れている様子を隠そうともしない愛奈ちゃんに僕は苦笑いする。
「あーもう! こうなったら今日は夜までVSに付き合うわ!」
立ち上がった愛奈ちゃんはビシッと僕を指さした。なんだか絶対に帰らないぞ!っていう圧が感じる。
こうなった愛菜ちゃんは帰るように説得しても聞く耳を持たないんだよね。僕としては夜遅くにこんな可愛い女の子を外に出したくないんだけど……。
まあ、今日も送っていこう。非力な僕じゃ頼りにならないかもだけど、女の子が1人夜道を歩くよりはマシだよね。
「わかったよ。だけど帰りはまた家まで送って行くから」
「それくらい大丈夫よ。家もそんなに離れてないし」
「いやいや、なにかあるかわからないでしょ? ただでさえ愛奈ちゃんは可愛いんだし」
「か、かわいいっ!?」
「しかも女流タイトルも持ってる有名人だよ? 今や将棋界のアイドルなんて言われてるんだから」
「ちょっ、あんまりアイドルだなんて言わないでっ! その……は、恥ずかしいじゃない……」
愛奈ちゃんは赤く染まった顔を隠すように俯いて頬に両手を当てているが、髪の間から見える赤い耳までは隠せてない。スカートから伸びる太腿も擦り合わせて「~~~~っ!」と唸っている。
普段はクールなのに、たまに照れる姿が可愛くてギャップ萌えしちゃうんだよね。
それにしても、みんなが「将棋界のアイドル」って呼んでも淡々と聞き流すだけなのに、なんで僕が言ったら照れるんだろう?
「とにかく、頼りないかもだけど愛奈ちゃんのことは僕が守らせて」
「う、うん……お願いするわ……」
控えめに頷いた愛奈ちゃんに満足して、僕は将棋盤に視線を移した。
せっかく遅い時間まで愛奈ちゃんが将棋の研究に付き合ってくれるんだ。絶対に強くなって、期待に応えられるようにしないと。
だって、小さい時に愛奈ちゃんと約束したんだ。プロ棋士になってタイトルホルダーになるって。
「ほら、続きやろ? 早めにこの盤面の研究が終わったら暗くなる前に帰れるかもでしょ?」
「え、えぇ、そうね。こうしてる時間がもったいないわ」
愛奈ちゃんは咳払いをしてから座り直した。まだ顔が赤いままだし、手をソワソワとしているのが気になるけど……。
いや、それよりも将棋に集中しよう! この盤面の最善手を覚えないと。最近はこの形をよく対局で見かけるからね。
気合いを入れ直した僕は、脳内の将棋盤で駒を動かし始めた。
「……泊めてくれてもいいじゃない」
「ん? なんか言った?」
「な、なんでもないわ! というか、私を見るんじゃなくて将棋に集中しなさい!」
「えー、絶対なんか言ったよ!」
「うるさい! このアホ!」
なんて言ったか聞き取れなかったから聞き返したらアホって言われてしまった……。確かに対局の勝率が低いから、他のプロ棋士に比べたらアホなんだろうけどさ。
いやいや、ポジティブに考えろ! 自分にはまだ伸びしろがあると思い込むんだ!
タイトルを取って愛菜ちゃんに喜んでもらうんだろ? その後、愛菜ちゃんに告白するんだ。
出会ったときに一目惚れから始まったこの初恋。絶対に成就してみせる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます