第17話 ボスに遭遇するのは運がいいのか、悪いのか
モンスターとの契約について調べることにした大河だが、なんの手がかりもないので、サーボから《従魔士》を取得しテイムも試しながらダンジョンを進んでいた。
とりあえず1層からダンジョンダイブした大河は、モンスターについて観察していく。
契約するための特定の条件というのは不明だが、なにか役に立つこともあるかもしれないと考えたからだ。
それにモンスターを観察する余裕ができたというのもあった。
6階層まで進んでいる大河の強さは、低階層のモンスターではどうにもならない。
攻撃されてもオーラ強度の差から対してダメージにならないので、安心して行動を観察することが出来た。
改めて観察すると掲示板に書かれていた通り、モンスターのAIも相当に変わっていると大河は思う。
探索を有利に進める《盗賊》のクラスも取得している大河は、そのクラスで覚えたスキルでエリアに存在するモンスターの動きがある程度確認できる。
それによると見境なく襲ってくるモンスターもいれば、オーラ強度の差で威圧され逃げていくモンスターもいるのがわかる。
逃げたモンスターが別のモンスターを引き連れて襲ってくるといったこともあり、モンスターにも確かな知性がある大河は感じた。
またテイムについても大河は幾つかわかったことがある。
テイムしたモンスターは直ぐに戦闘に参加させることが可能で、その場合パーティを組むことになる。
大河は今までソロだったので気づかなかったが、パーティでモンスターを倒すと得られる経験値は貢献度によって分配される。
貢献度の算出方法は不明だが、不公平はない仕様のようだ。
またテイム可能なモンスター数は《従魔士》のスキルに依存しているようで、初期だと一体が限界で、別のモンスターをテイムしたい場合は先にテイムしたモンスターを開放しなければならない。
テイムしたモンスターで軍団を作るといったプレイングはかなり《従魔士》を鍛えなければ無理そうだ。
戦闘に関しては実際に共闘してみると、掲示板に書き込まれていた内容程には大変ではないと大河は感じている。
確かにAIはテイム前に比べて制限されているように感じるが、指示に対しては正確だし、モンスターからの攻撃も自発的に避ける。
前線で共に戦う場合はサポートに徹してもらい、プレイヤーがアタッカーになれば十分戦えそうだし、《従魔士》のスキルが充実していけば更に安心して共闘できるだろう。
モンスターの行動やテイムについてはわかったことは多いが、肝心の契約の条件については今のところなにもわかっていない。
テイムの検証は落ち着いたので、テイムしていたモンスターを一旦開放していた大河はマップに救援申請が来ていることに気がついた。
救援申請とはエリア内でプレイヤーがモンスターとの戦闘中に他のプレイヤーに救助を求めるシステムだ。
基本的にモンスターは見つけたプレイヤーが倒すのが前提であり、後から発見したプレイヤーは手を出さないのがマナーだ。
だがプレイヤーが瀕死になってしまい、善意で助けようとモンスターに攻撃をすることはよくあることだ。
救援申請はそれを回避するためのシステムで、プレイヤーが瀕死に見えても救援申請がされてない状態では横殴りをしないように判断させ、善意でも攻撃しないようにプレイヤーに促している。
もし救援申請が出ていないのに攻撃した場合は善意でもマナー違反とされ、悪質とみなされるとログイン不可にさせることもある。
またプレイヤーが自分では倒すことが出来ないモンスターに遭遇した場合でも、他プレイヤーに助けを求めるために救援申請を行うこともある。
どちらにせよ救援申請が出ているということは、自分以外のプレイヤーに救援を求めないといけないモンスターがそこにいるということである。
そしてその多くは、エリアボスとの戦闘で行われる。
大河が救援申請のあった場所に急いで向かうと、二人のプレイヤーと大型のモンスターが戦闘をしているのが確認出来た。
プレイヤーの一人は瀕死なのか座り込み、もう一人が瀕死のプレイヤーを背に庇うようにしてモンスターと向かい合っている。
油断なく剣と盾を構えるプレイヤーは《戦士》のクラスで、もう一人は《魔法使い》か《僧侶》のクラスか。
対峙するモンスターは体長が3m近い大きな熊で、茶色い毛皮に覆われていてる。
地を踏みしめる4本の足は太く鋭い爪があり、体の至るところで発達した筋肉が体を盛り上げている。
「よりにもよって、ワイルドベアーか!」
確認出来たエリアボスに大河は苦笑いする。
エリアボスは《ダンジョンガーディアン》、《ゲートキーパー》と同じボスに区分されるモンスターで、通常エリアに不規則に出現するモンスターだ。
モンスターの種類や出現時間は決まっておらず、現れたモンスターによって強さも大きく変わる。
中でも熊型モンスター通称ワイルドベアーは低階層で出現するエリアボスでは最強で、その強さは《ゲートキーパー》のゴブリンを軽く上回ると掲示板でも恐れられている。
エリアボスは、発見の後先関係なく攻撃してもいいとされているので、救援申請がない場合でもボスに気がついたプレイヤーが集まってくる。
エリアボスはレアドロップもあるので、見つけたプレイヤーはなるべく独占しようとパーティや知り合いで挑むため救援申請を出さないケースが多いのだが、ワイルドベアーの場合は救援申請必須と言われる程だ。
救援申請をしても助けが来る前にやられてしまうことも多いが、今回はギリギリ間に合ったようだ。
だが大河が安堵する間もなく、ワイルドベアーがその巨体で庇うように守っていたプレイヤーを跳ね飛ばす。
大きな体に弾かれたプレイヤーは地面を転がるが、盾での防御が間に合ったのか死亡はしていないようだ。
しかしダメージが大きいようで、剣を支えに立ち上がろうとしているがその動きは見るからに遅い。
《戦士》のプレイヤーを跳ね飛ばしたワイルドベアーは、その勢いのまま残りのプレイヤーに襲いかかろうとする。
「はあああっ!!」
そこに全力で駆けてきた大河の飛び蹴りが炸裂する。
駆けてきた勢いを殺さないように地面を蹴り、ワイルドベアーの横顔に揃えた両足の裏を全力で叩きつける。
スピードと飛び込んだ力が十分に乗った一撃は、こちらに気がついていなかったワイルドベアーの横っ面に突き刺さり、そのままその巨体を大きく吹き飛ばす。
「救援を見て駆けつけました!間に合ってよかった!」
ドロップキックを決めた反動で地面に投げ出された大河は素早く立ち上がり、転がるワイルドベアーから目を離さずに救援を求めたプレイヤー達に声を掛けるのだった。
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