騎士の決意

 次の日。ラウドは狼団の主だった団員を自分の執務室に集めた。


「皆、連日の探索で疲れているとは思うが」


 執務室の自分の机の横に立ち、団員達をぐるりと見回す。カルの姿もちゃんとある。良かった。ラウドは顔色こそ変えなかったが、心の中でほっと息を吐いた。


「古き国の騎士としての任務は、休息が許されないものばかりだ。頑張って欲しい」


 そう言ってから、考えていた任務の割り当てを発表する。


「カル副団長は、竜騎士団や熊騎士団の若者と一緒に、近郊の探索を。ヴォルク副団長はここに残り、私の代わりに団員の管理を」


「分かりました」


 ラウドの言葉に、カルがそっぽを向き、ヴォルクが恭しく頷く。ここまでは、普段通りの任務の割り当てだから、カルとヴォルクの反応もいつも通り。そして。


「ルイス副団長が戻ってきたら、残っている団員をできるだけ彼のところに付けて欲しい、ヴォルク」


 新しい任務を、ヴォルクに命じる。


「ここ以外の、古き国の騎士達の拠点が、早急に必要だ」


 これが、ラウドが昨夜考えていた、物事。どう頑張って隠していても、新しき国は、レーヴェは、いつかこの場所を見つけるだろう。その時に、女王を隠すことができる場所が、他に必要だ。勿論、この地下に隠すことのできる騎士の数や、食糧の問題をも、考慮に入れたつもりである。


「分かりました」


 ラウドの言葉に、ヴォルクが灰色になりかけた髭を浮かせる。カルがラウドをきつく睨んだことにも気付いたが、ラウドは気付かないふりをした。


「団長は、どうなさるのですか」


 そのカルが、不意に、切り口上でそう述べる。普段と同じ言葉を、ラウドはすぐに口にした。


「新しき国の王都周辺の探索に向かうつもりだ」


 新しき国との長き戦いの間、新しき国の王都周辺の探索に時間を掛けることができなかった所為か、王都周辺には悪しきモノの発生が多い。古き国の騎士として看過できない事態である。だが、敵の本拠地を探索する危険も、ラウドは十分承知していた。他の者が行くより、自分が赴いた方が良いだろう。それが、狼の騎士団長としての務め。


 カルには、ラウドのように頑なな部分を持つ人間とも気安く話すことができるから、他の団の若者達と上手く協働することができる。他の騎士達よりもずっと年上のヴォルクには、経験に裏打ちされた信頼が備わっているから、狼団の管理を任せても安心感がある。そして、異父弟であるルイスは戦うよりも探索する方が向いていることを、弟の小さい頃を知っているラウドにはよく分かっていた。ルイスの少しふらふらしたように見える部分は、従妹で妻で古き国の騎士でもあるミヤが補ってくれている。彼らのことを理解した上での、任務の割り当て。彼らの配置については、ラウドは控えめながらも自画自賛していた。


 だが。ラウドから目を逸らしたカルの、無表情に、一抹の不安が過ぎる。しかしどうすれば良いのだろうか? カルとラウドの任務を入れ替えるわけにはいかない。カルには、生き延びて欲しい。それがリディアの願いだった。だから。くすぶる不安を、ラウドは無理に揉み消した。

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