第23話 ━歪み━

泥沼のように変わり果てた砂利道をニオと一緒に進んでいく。一歩一歩、支え合いながら。

少しの距離の砂利道や土の上なのにも拘らず、歩くことがままならない。酷いところでは膝下まで飲まれてしまう。

苦戦しながらも境内の苔むしている大木の根元に辿り着いた。

歪んでいない地面はここだけだろうか。少し盛り上がった丘のような地形に大木は生えていた。低いので遠望とまではいかないが、ある程度辺りを見渡すことができる。

一時逃れとして休息する場にしては上出来だった。


(無事か?命拾いしたのか?)

 

僕らがさっきどんな影響を受けたのか何も分からない。足や靴についたヘドロを落としながら僕はニオに聞く。

「平気?具合は大丈夫?」

見るからに具合が宜しくないニオに、僕は寄り添うように話しかけた。

「ちょっと無理かも。私気分悪い。これが夢だったら良かったんだけれど、そんなことないみたい。」

木の下でニオは腰をかけ、膝を畳み、ため息を実らす。

ここまで来るために有りっ丈の力を使った僕も息を切らしながら同じ木の根に腰をかける。

(そりゃあそうか。とりあえず考える前に頭を冷やしたい。今度こそは一息つけるといいな。)

 

何故か手を掛けた地面だけはぬかるんでいた。すぐに手を払う。

 

「休憩しようにもこの景色じゃあなぁ。」

目の前にある社や鳥居が蕩け、蠢くようにぐにゃぐにゃになっている。ずっと見ていると気分が悪くなる気がする。安静とは程遠い。

 

「こんなことが起こるとは思ってなかったんだろ?」

「うん……あれについて本当に知らないし聞かされてない。信じて欲しい。……残念ながらこれじゃ私は役に立ちそうにない。」

ニオ達が世界を止めた理由は分かったのだが、ニオはこの世界が溶けた理由、溶かされた理由には身に覚えがないようだった。

 

「そういえば、なんでここだけ歪んでないんだ?」

「そう、それは私も気になってた。見た限りだけど、何か条件があってあの光で歪ませられたものとそうじゃないものがあるんじゃないかって。」

 

社、鳥居、車、家、電柱、地面、目につくほとんどのものは歪んでいる。でも、僕らを含む人々、この大木や木々、周りの土、花や草、ニオから渡された端末も見た目は何か変化があるように見えない。

何か理由は……?

 

一つの共通点に気づく。


これってもしかして、あの光線が人工物だけを意図的に変形させたのか?

 

僕はこの推理を信じて口に出す。

「あのさぁ、あの飛行物体が出した光線によって人工物だけを変形させたんじゃない?今までに地球人が作り上げたものだけを狙って。」

 

「え?言われてみれば……でも、なんでそんなことをするの?多分あのトリアンドルスは惑星ラノハクトの上層機関が管理してるはずなんだけど。何で地球をそんな風に攻撃したのかな、あぁ、はぁ、わかんない、全然わかんないや……」

 

(目的は……?)

 

ニオはそのまま俯いて喋り続ける。

「もしも……そうだとしても……、そんなわけないけど……私たちの星の人たちはこんな野蛮なことしないって……信じてたのに。」

 

「……その言いぐさだと今までの君たち、そっちの歴史ではこんなことは起こさなかったんでしょ?」

「無いよ。少なくとも私たちが教えられた歴史の中では。それももう正しいのか分かんなくなっちゃったけれど。」

 

(——どうして、地球全体の時間を止めてから人工物だけを溶かす、みたいなそんな遠回りでめんどくさいことをする必要があったんだろう?単に征服や虐殺するのが目的なら爆撃みたいな直接的な破壊をすれば良いのに……)

 

「……ズシン」

切羽詰まる会話の最中、何かが揺れる音がする。

音がする方を振り向くと黒く巨大なマシンが地上で少しずつ動いているのが見えた。住宅を優に越す高さ。十五メートル以上だろうか。

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