第21話 ━あの時━
本当に時が止まったようだった——
ニオは少し離れた神社の木の階段に凭れかかるように座っていた。
僕が誰かを救おうと、これだけ必死になったのは人生で初めてかもしれない。
「どうしてこんなことに……?」
さっきのパニックよりは落ち着いているものの、ずいぶんと肌の色が変わり、触角も垂れ下がっている。
そんなニオは渡したお守りを握りしめていた。
僕は少しだけ間を空け隣に座る。
(ん?待てよ……あれ……?)
この階段からの光景を見て、とある昔の記憶が蘇った。
(あれは小学生の頃だっけ——)
「すいませーん」
「はいよー。」
「ここってどんな神社なんですか……?」
「がっくん!まずは、「町探検の授業で来ました」って言わなきゃ!」
「あぁそっか……」
「そうか、うちかい?うちはねぇ日本では珍しい「鬼を祀る神社」なんだよ。だから名前にも鬼の文字が入ってる。ほらこのお守りの刺繍にも。」
「ほんとだー」
「なんで鬼なんですかー?」
「昔この辺りで鬼が人間に虐められたっていう言い伝えがあるんだよ。だからその仕返しをされないようにここで祀ってるんだってさ。」
「へぇー」
「逆じゃなくて……ですか?」
「たしかに、鬼が悪者の昔話とは真逆だね。」
「なんか変わってますね」
「……ところで、君たちここまで歩いてきたの?あっちの小学校から? はるばる来たねぇ……二キロはあるんじゃない?お茶は……持ってるか、あ、そうだ特別にタダで御神籤ひいていいよ。」
「え、いいんだやったー」
「ありがとうございます!」
「授業の一環とはいえ暑くて遠い中、ここまでやってくるなんて……先生たちもひどいもんだねぇ。」
「はいー、俺大吉!」
「いいなー、ゆう大吉かぁ」
「がっくんはどれひくの?」
「じゃあ僕はこれ」
「なんだそれ」
「吉凶未分? なんて読むんだろ?」
「すみませーん!」
「はいよー。」
「はは、レア物ひいたな少年!それは「きっきょういまだわからず」って読むんだ」
「つまり僕の運勢はどうなるんですか?」
「うーん、神様も君の運勢は良いか悪いか分からなかったんじゃないかな」
「なにそれ、神様だっさ!」
「へぇ神様にもわからないんだ……」
ニオに渡したお守りにもこの神社と同じ名前が施されていた——
(——そんなことよりだ。)
「……この事態に何も心当たりは無いの?」
と優しく話しかけてみる。
「無いよこんなの。知らない。」
俯きながらの返事はいつもより小さく吐き捨てるようだった。
「本部ってとこに連絡はできないのか……?」
「だめ、エラーが出る。何度やっても繋がらない。」
ここでも僕は何もできないのか。
(この世界でまだ動けているのは僕とニオだけなのか?)
「僕ら以外にも動いている人がいるかもしれない。ここである程度休んでから一緒に色んなとこ行ってみよう。」
ニオが涙目で頷くのが分かった。
心が絞られ、痛い。
(思い返すとニオと出会ってから分からない事の連続だった。その気持ちは嫌なほど分かる。)
(だからこそそっと寄り添っていたい。)
暫くただ隣に座っていた。ニオの心境と次のセリフを考えながら。
「……とりあえずこの状況を整理するね。」
——そう、こういう時こそ冷静になれ。
僕は今まで起こったことを順番通りに思い出し、言葉にして並べていく。
「事の始まりは君たちが僕ら地球人を調べるためにこの星に来て、地球の物体の時間を操作したところから。僕らにこの調査自体を悟られないように五秒を五十年にしたんだよね?」
元の世界の時刻午前八時二十分に起きた出来事だ。
「……」
「でも僕はその影響を受けなかった。その理由は今のところ君たちにも分からない。」
「そう。」
「そして通常通りの活動ができる僕は君たち、惑星ラノハクトだっけ?高校の屋上で異星人に出会ってしまった。この時間が止まったような世界で。」
「……迷惑かけてごめんなさい」
「君が謝ることじゃないよ。……そして喫茶店で君の友人と出会い、事情をある程度教えてもらった後、調査を再開。この端末を使って通話を繋げたまま店の外へ出た。暫く経った後、君以外の異星人の動きが止まる。おそらく……本来は時間操作の影響を受ける範囲は地球人とかに対してだけのはずだったのに、あの瞬間から何故かその効果が同じように適用されてしまった。その原因は不明。って事でしょ?」
「そうだね。……その通りです。」
(よし、ここまで合っているようだ。)
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