その人は誰? ―獅子の傍系 3―

風城国子智

助けてくれた人、は

 確かな感覚に、顔を上げる。


「気が付いたか」


 木々が風にざわざわと鳴る音だけが聞こえてくる暗い空間の中、濃い色の髪に縁取られた丸顔の中にある灰色の瞳が、ロボを優しげに見下ろしているのが、見えた。


 細いがしっかりとした腕の感覚と、少しごわごわしているが暖かいマントの感覚が、ロボの背中にある。自分は何故、この人の腕の中に居るのだろう? ロボは思わず首を傾げた。確か、母に頼まれて、家の近くの森の中に苺を摘みに行っていた、はず、なのに。そうだ、確か、苺の茂みの中から、何か黒い靄のようなモノが現れて、そして……。


「大丈夫か?」


 静かな声に、はっと目を開ける。木々が密になっていて暗かった空が僅かに明るくなっているのが、見えた。道の両側に有るのは、背の低い橄欖と葡萄の木々。幼いロボが母と暮らす家は、もうすぐ先。


「少し身体が冷たいな。おそらく、『悪しきモノ』の所為だろう」


 ロボを横抱きにして森の中を歩いているその人が静かにそう、呟くのを、ロボは夢現に聞いていた。


 と。


「ロボ!」


 母の声が、耳を叩く。ぼうっとしている間に、ロボが暮らしている屋敷に辿り着いたらしい、いつの間にか、ロボの小さな身体は、母の温かい胸の中にあった。


「ロボ! しっかりして!」


 悲痛な母の声に、大丈夫とでも言うように首を横に振る。ロボの意識が薄れている間に、ロボをここまで運んできた細い腕の人の姿は消え、その代わりに、普段通りの明るく狭い部屋と、泣きながらロボをベッドに寝かせる母の柔らかに揺れる黒髪が、見えた。そして。ロボの身体から外された青色のマントから、銀色の塊が転がり落ちる。おそらく、助けてくれたあの人の持ち物だ。綺麗な花の形をした、その小さな銀色の塊をしっかりと掴み、ロボの意識は仄暗い闇へと落ちて、行った。

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