第21話 さあ非日常への朝が来た

 翌朝よくあさ、といってもろくに時間はたっていない。


 僕はすさまじい眠気とたたかいながら家を出た。

 夜のうちはあんなに寝付ねつけなかったのに、朝になると眠いのはなぜなのだろう。

 人間の体とは不思議なつくりをしている。


「トータルで三時間も寝てないなあ、たぶん……」


 現在午前六時半。

 こんな時間に家を出るなんて滅多めったにないことだ。


「七時じゃなくて八時にしてもらえばよかったよ」


 昨夜は一刻いっこくも早く真実を知りたいと思っていたのに、えらく身勝手な話だ。

 でも昨日の話の流れでは何時であっても関係なさそうだし、ちょっと失敗したなあという意識はどうしてもわいてくる。


 そんな風につまらないことを考えながら歩き続けて二十分。

 僕は駅前広場についた。

 ちょっと早いけど、二人は来ているのだろうか。


「こちらです」


 小さく、しかし不思議とよくとおる声で呼ばれた。ミドリコの声だ。

 そこには休憩きゅうけい用のイスに腰かけているミドリコと、ミドリコの膝枕ひざまくら爆睡ばくすいしているあおいさんの姿が。

 葵さんは幸せそうな寝顔でグーグーいびきをかいていた。


「…………」


「貴方はいま、『自分はこんなに眠いのを我慢がまんしてきたのに』と腹を立てましたね?」

「い、いやそんなことないよ!」

「仕方のないことなのです。

 わたくしの疑似ぎじ大腿部だいたいぶは人間が睡眠をとるのに適切な弾力と温度に調整することができます。

 葵のような低能メス猿にあらがえるはずもないのです」

「そ、そう」


 ミドリコってホント何でもアリだな。

 これで性格設定さえまともなら最高なのに。


「それで、説明はミドリコがしてくれるの?」


 こんな状態の葵さんを無理に起こしたくない。

 起こしてもまともな説明が聞けるとは思えないしね。


「いえ、予定を変更させていただきます。

 よろしいですか? よろしいですね?」

「変更?」

「はい、もなくむかえが到着する予定です」


 ふーん、と鼻を鳴らしながら周囲を見わたすと、朝もやの向こうから一台の乗用車がゆっくりとやってきた。

 中から背の高い、がっしりとした体格の男が姿を見せる。


「よお久しぶりだな時田ときたゆう

 俺のことを知っているかい?」

「えっ?」


 こんな人知らない。

 というかこの人、日本語がおかしくないか?

 知り合いなのか初対面なのか、どっちなんだよ?


 僕の内心をさっしたのか男は苦笑した。


「いやすまん。

 やっぱり俺の知っているユウとは別人なんだな。

 俺は岡持おかもち

 岡持おかもち研吾けんごだ」


 ああ、この人も別の世界からやってきた人なんだな。

 口ぶりからすると、向こうの僕と友達なのかもしれない。


「乗ってくれ、話は走りながらだ」


 僕たちはゆすっても声をかけても起きない葵さんを後部座席に運び入れ、どこかに向って車を走らせた。

 ドライバーは岡持という男性。

 助手席に僕。

 ミドリコは後部座席で、引き続き葵さんの膝枕ひざまくらを担当する。


「あの、岡持さん」

「んん?」

「向こうの世界の僕と、どういうなかだったんですか?」

「んん、仲ね……」


 少し言いよどむ彼。


「ジム仲間だよ。

 俺が先輩で君が後輩。

 何度も顔を合わせるたびに挨拶あいさつをかわす仲になった」

「ああやっぱり。

 岡持さん体格良いですもんね」

「ハハッ、君もすぐ同じくらいになれるよ」


 岡持さんはさわやかに笑った。


「これからどこへ?」

「うん、場所は○○県の山奥なんだけど、いいかな?

 学校は休んでもらうことになってしまうけど」

「まあ仕方ないです」


 ○○県は昨夜の爆発事件があった場所だ。

 やはり昨夜の事件と彼らは関係があるらしい。


「口で説明するのもいいけど、やっぱり実物をその目で見たほうが納得しやすいと思ってね」

「どんなものです?」

「んー」


 彼はまた言いよどみ、顔を前に向けたままそっけなく答えた。


「ひと言でいうと、敵の兵器」

 

 ああうん。予想はしていたんだよね、なんとなく。

 昨日おこったアレコレを分析ぶんせきしたらたぶん誰だってそういう可能性を意識するはずだ。

 これから聞かされるのは戦争の話だ。


 しかも普通じゃないヤバイ敵と戦っているって話。

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