第16話 ユウのチン長

「全身に多量の汚物をため込んでいる――か」


 さすがにあんな事を言われては気にかかる。

 ためしに左脇ひだりわきを指で探ってみると、あせがたまってヌルヌルしていた。

 これはまずい。

 あおいさんは気にならなかったのだろうか、それともあえて無視してくれていたのだろうか。


 どちらにせよ徹底的に洗わなくては。

 僕は浴槽よくそうに入る前にシャワーをびて、汗を洗い流し始める。


 意識的に触ってみると色々な部分がベタベタのヌルヌルだった。

 髪、首筋、脇、股……、だめだこりゃ。

 こんなんじゃ嫌われてしまう。

 僕はもう気楽で無神経な一人ぼっちじゃないんだ、ちゃんとしないと。


 今の僕にはその……、あ、葵さんが、いるんだから。


 カーっと顔が赤くなるのを体感しつつ頭からシャワーを浴び続ける。

 その時、出入り口のガラス戸がゴンゴン! とノックされた。

 返事をする前にズバァン! と勢いよく開かれる。


「お背中お流ししまーっす!」


 許可もなくズカズカと入ってきたのは葵さんだ。

 身に着けているものはバスタオル一枚。

 それ以外は何もなし、全裸。


「あうっ」


 僕はマヌケな声を出したまま、何も言えず彼女の艶姿あですがたに見とれてしまった。

 今日の放課後に見た体操着姿のひなちゃんは、いかにも子供っぽいあどけなさを残した体型をしていた。

 いま目の前にいる葵さんは大人の魅力に満ちていて、なんというかこう、たった一枚のバスタオルでかくしきれるようなボリュームじゃなくなっていた。

 肉付きのいい胸や太ももがバスタオルを押しのけてあふれ出しそうだ。

 女の子って、四年でこんなに変わってしまうのか。


「さあさあすわってすわってお客さん」


 僕はすすめられるままイスにこしかけた。

 頭の中はパニックだ。全身が硬直したままピクリとも動けない。


「フンフンフフーン♪」


 葵さんは鼻歌はなうたまじりにそんな僕の背中を洗い始める。


「うっ」


 くすぐったくて、僕は身をよじった。

 他人に体を洗われるなんて、おそらく母とお風呂に入っていた幼稚園児のころ以来だ。


「あ、くすぐったい?」

「は、はい、ちょっと」


 話しかけるためにちょっと後ろを振り返った瞬間。

 大きな胸の谷間が視界に飛び込んできて、思わず股間に強い衝動が芽生めばえた。


 あ、まずい!

 僕は前かがみになった。

 まずい、前のほうがまずいことになった!


「コラ逃げるなー」


 葵さんは笑いながら脇腹わきばらあたりを洗い始める。

 くすぐったいを通り越して、性的な快感を刺激される。

 まずいところがより激しくまずいことになった。


「も、もういいですから、あとは自分でやりますから!」

「ダーメーあたしがやるのー」


 逃げようとする僕の背中を葵さんが捕まえる。

 生々しい感触に包まれて、僕はもう臨界りんかい寸前すんぜんだ。

 葵さんは少しの間そのまま僕の背中を抱きしめ続けて、そしてぽつりとつぶやいた。


「やっぱりちょっと小さいね」

「えっ」


 そのひと言で僕のものはシュンとなった。


「こっちのユウさんまだ十七だもんね。

 体つきも身長もこれからもっと大きくなるんだもんね」

「あ、ああ! 

 身長のことね、身長の話ね!」


 チン長の話じゃなかった。

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