第2話 ひまわりの季節
っていってもテーブルをはさんで
手をのばせば届きそうな距離に、
僕は少し赤くなっている顔を見られるのが嫌で、ほとんどうつむいたままだった。
彼女のかすかな息づかいが聞こえるだけで胸が高まる。
腕を組んだり首をひねったりする時の
ああ僕はきっとヘンタイなのだ。
いわゆるムッツリスケベというやつだ。
僕、
相手は僕が部長をつとめる囲碁将棋部の後輩、目の前に座っている彼女だ。
名前は
僕は最初、彼女の名前を「ひまわり」と間違えて読んじゃった。
彼女は素直で明るくて、それこそ
僕みたいに陰気な先輩相手でも、ひなちゃんは全然気にせず話しかけてくれる。
女の子が僕だけに笑顔を向けてくれるなんて、いったい何年ぶりの事だっただろう。
僕はその一瞬で彼女の笑顔に心をうばわれたんだ。
ピシッ。
気がつくと僕は
ぼんやりと
これで部長だってんだから嫌になっちゃうね。
でも初心者のひなちゃんは今の
チラッと表情をうかがってみると、彼女は
悩んでいる顔も可愛い!
……とか思ってしまう僕は、やっぱりヘンタイだ。
好きな子が悩む姿を見て喜ぶって、どんな趣味だよまったく。
ちなみに我らが囲碁将棋部の部員は、実質的に僕たち二人だけ。
他にも
部の活動日時は月~金曜日の、しかも昼休み限定という
部長の僕がいうのもなんだけど、典型的なダメ部だと思う。
でも、そんないい加減で楽な部活だからこそ、僕はひなちゃんに出会えた。
彼女は他にもいくつか部活動をかけ持ちしていて、いつだって
現在ほかにやっている部活はバスケに園芸、美術とアニメ・漫画研究などなど……。
そんな彼女だから早朝と放課後の予定なんかはだいたい毎日
だから昼休み限定というユルユルな我が部は、とても
おかげで僕はこうして週に五日、数十分だけ彼女と二人きりの時間を過ごせている。
……彼女はどうやら次の一手を決めたようで、
「なんかぁ、センパイとこうやってのんびりパチパチやっているのって、いいですよね」
「そ、そう?」
思わぬ一言に、胸をときめかせる僕。
「はいー、なんか『身も心もスローモーション』ってかんじ? ふああ……」
大あくびをするひなちゃんを見て、僕は内心ガックリきた。
どう考えてみても恋の情熱みたいなものをふくむ言葉じゃないよね。
スローモーションって、それじゃあまるでお
つまり、やっぱり、結局。
愛されてないってことだよね、僕。
パチッ。
安物の
彼女の
細くて小さな白い指、桜色の
ああ、わかっている。きっと今の僕は恋愛補正が強すぎて、ひなちゃんのことなら何でもかんでも好ましく思えてしまうんだ。
でもしょうがないでしょ。
恋心って、そういうものでしょ。
胸の奥にわきあがるモヤモヤした想いが急速にふくれ上がって、ため息となって口からあふれ出そうになる。
「グェップ!」
……なぜか、ため息のかわりにゲップが出た。
品のない音が消えると、もともと静かだった室内は恐ろしいほどの
思わず口を押さえながら僕はひなちゃんの様子をうかがう。
ひなちゃんはプッとふきだし、大口を開けて笑いだした。
「やっだぁセンパイ、お昼ゴハン食べすぎですよー」
「はっ、ははっ、ゴメンね!」
うわあああああ死にたい! むしろ死んでしまえ!
好きな子の前でゲップとか、するか普通!?
あまりのみっともなさに自分を
ひなちゃんが笑って許してくれたのが不幸中の幸いだった。
もし
「さあさあセンパイのばんですよ、ドンドンいっちゃいましょう!」
「う、うん!」
後輩にフォローされまくって、しかも言いなりな僕。
ミジメだ、ブザマだ。
それにしてもひなちゃんは優しいなあ、いい子だなあ、エヘヘ。
僕は落ち込みながら鼻の下を伸ばしていた。我ながら器用だと思う。
こんなグッチャグチャな精神状態でまともに打てるはずもなく。
勝負は、僕の負けでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます