背負うには重すぎたので全部置いてきました。

@gyozamilk

第1話

静かな講義室に授業終了のチャイムが鳴り響く。


「そこまで。手を止めろ」


ペンを置く音,紙を滑らせる音,深く息を吐き出す音が部屋を埋め尽くした。

今学期最難関と思われた魔術体系基礎の合計6時間に及ぶ単位取得試験が,今ついに終わったのだ。


「試験官が解答用紙を回収するまで,不正行為を疑われるようなことは避けるように。問題が発生した際は試験官に知らせなさい」


前列から順番に試験用紙が回収されていく。試験用紙が回収された学生は,堰を切ったように周囲の人と話を始めた。

それは自分たちも例外ではなく,試験用紙を回収されるや否や,俺,レオナルド・ヴェラニコフは隣の席に座る金髪の青年ジーヤン・アヴランカと話を始める。


ジーヤン「レオ,どうだった」

レオナルド「まぁ大丈夫そう」

ジーヤン「だよなぁ知ってた。俺本当にまずいよ,どうしよう」

レオナルド「大丈夫,あれだけやったんだから」


ジーヤンは問題用紙を勢いよく捲り,書き込まれた情報に忙しなく目を通していく。


レオナルド「過ぎたことを気にしても時間の無駄だって。魔法論基礎の対策した方が100倍建設的だぞ」

ジーヤン「そんなこと分かってるけどさ,どうしても心配なんだよ。お前はないのかよ」

レオナルド「無いよ。過ぎたことはなるようにしかならない」

ジーヤン「流石,天才は思考も感情も普通じゃないな。羨ましいよ」


机の上に散らかっていた筆記具の類をカバンにしまっていく。

解答用紙の確認がとれ,試験終了の号令と同時に,講義室は喧噪に包まれた。


「あの問題どうやって解いた?」

「お前の答え見せてくれ!」

「今回の難易度どんな感じだ!?」


試験に不安を抱えた学生が,わらわらと俺の周りに集まってくる。


不安を抱えるのも当然だろう。この科目は”魔術体系特論”の先行授業であり,基礎とついてはいるが,受講者の8割以上が単位を落とすほど専門性の高い内容となっている。

グレード3の我々が半年で理解できる内容ではないことも講師は理解しており,1度目の履修はあくまで全体像を把握すること,また可能であれば単位を取得すること,としている。1度目で全体像を把握したうえで,グレード4で”魔術体系特論”と並行して”魔術体系基礎”の単位を取るが常となっている。


暫くの間,他の学生の質問に対応したところで,時間がないことを理由にジーヤンと共にその場を離れ,ドア付近で俺のことを待っていたシャーロット・アデレードとパヴロフ・シュトガルドと共に講義室を後にした。


シャーロット「お疲れ。どうだった」

レオナルド「まぁ,問題ない」

パヴロフ「流石だな。まぁ,俺も大丈夫そう」

シャーロット「羨ましいな。俺はギリギリ落ちそう」

ジーヤン「おお,仲間」

シャーロット「一緒に受けようか,ジーヤン」


階段を駆け下りながら,まだ分からない結果に喜怒哀楽する。建物を後にして向かう先には,学院のシンボルとされる,大きな時計塔が高々と立っていた。


マクバレン王立魔法学院

マクバレン王国によって建てられた学院。王国に選ばれたもののみ通うことが許される名門として知られ,卒業生の多くは世界魔法機関や魔法省で能力を発揮し,一部は研究者や魔法師として活躍する。そのような将来を約束された人間のみが入ることを許される教育機関。


王立ということもあり,非常に優秀か,比較的優秀且つある程度突出した何かを持っていることが多い。また,両親のどちらかまたは両親共にマクバレン出身である割合も高い。


そのような学院に,なぜ,俺のような一般の生まれがいるのか。


それは,魔術の才能があまりにも突出していたからである。


両親曰く,俺は言葉を話す前から魔術を扱っていたという。その後,言葉を覚えると魔術に関することを自発的に学習するようになり,10歳を超える頃には学術の領域にまで踏み込んでいたらしい。


これには両親も驚いたようで,多方面の計らいもあって魔術を学ぶクラブに所属したこともあった。


しかし,クラブに参加するようになると,俺は興味のないことに熱中することができず,不断の努力というものが苦手であることを身をもって知った。当然,クラブもすぐに退会してしまった。


あくまで自由に試行錯誤することが好きであった俺は,クラブの活動を通して,学問に対して何か拘束されるような感覚を覚えたことから,学問の世界に足を踏み入れることを酷く避けるようになった。将来は電気技師となって父の後を継ごうと思っていた。


一般的な中学校を卒業する頃,学院から招待状が届く。


クラブで活動していた頃,神童がいると瞬く間に王国中に噂が広まり,マクバレンの講師が密かに視察に来ていたらしい。そして,その圧倒的な才能を前に,高校進学の際にマクバレンへ招待することをその場で決意していたらしい。


学院から招待状を与り,面接に行った際も,面接官に自分の性格を正直に打ち明けた。しかし,学院はそれを考慮したプログラムを組んでくれることを約束してくれたため,学生として活動することができているに至っている。


パヴロフ「試験もあと2つだ」

シャーロット「やっと前期が終わるよ」

ジーヤン「どっちも簡単だし,もう前期終わったようなものだ」

シャーロット「試験終わったら服でも買いに行かないか」

ジーヤン「いいね。丁度俺も薄生地の服が欲しかったんだ」

パヴロフ「レオはどうする」

レオナルド「俺も行くよ」


マクバレン王国では珍しい黒毛,首の後ろで束ねられた長い髪とおでこを出すように持ち上げて左右に分けられた前髪。

色は白く,メガネの向こうには気怠そうな目つき,紫色の瞳。

黒一色で統一された服とカバン,背中には長めの杖。


マクバレン王立魔法学院グレード3主席,未来の魔術王と囁かれる私,レオナルド・ヴェラニコフは,その実,


学問に遅れをとりつつある。

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