始まり

あの日から、私と大宮さんは旦那さんの出張の時は一緒に過ごすようになっていた。


私は、友達としてでも大宮さんの傍にいたいと思ってしまった。


そして、飲み会の帰りに大宮さんを家に連れて帰ってきた。


旦那さんが、出張なのはキチンと知っていた。


「由紀斗…。」


私の気持ちは、何十回と大宮さんと過ごして、爆発寸前だった。


とろけた顔に、もう我慢する事が出来なかった。


「由紀斗……んんっ」


「大宮さん、もう私、我慢できません。ごめんなさい」


「はぁー。んんっ」


大宮さんの全部が、可愛くて…。


たまらなかった。


全てを終え、隣で眠る大宮さんを見つめていた。


酔いが覚めた大宮さんは、戸惑っていたけれど…。


私を抱いてくれた。


「ずっと、真白ましろとこうなる事を望んでいたのかもしれない。」


「それは、楽だからでしょ?逃げたいからでしょ?」


「そうだと思う。私は、真白に抱かれると楽だよ」


ハッキリと言われて、胸の奥が締め付けられる。


「でも、それだけじゃない。こんな風に愛されたのは、久々だった。」


私は、梨寿りじゅさんを抱き締める。


もう、苦しんで欲しくなかった。


例え、これが愛じゃなくても…。


その日から、旦那さんが出張の時は、梨寿さんは、家にやってきてくれた。


「真白、しよっか?」


リードしてくれるようになった。


梨寿さんから、私を求めてくれるようになった。


でも、言葉が足りなかった。


ずっと、旦那さんが梨寿さんの中にいるのをハッキリと感じていた。


「梨寿さん、んんっ」


「はぁー、真白。ッッ」


こんなに、体は溶け合っているのに…。


何かが、ずっと足りなかった。


「愛してるっっ、梨寿さん」


「うん、んんっ」


うんしか言ってくれなかった。


「好きだよ」


「うん」


私もって、言ってよ。


「梨寿さん、今日は私からしたい」


梨寿さんの背中に唇を這わせる。


「んんっ」


「梨寿」


たまに、呼び捨てにしてる事にも何も興味をもたれなかった。


7ヶ月が経ち、私は離婚を迫った。


「私に誠意を見せてよ。こんな関係のまま嫌だよ」


梨寿さんは、私を抱き締めてくれた。


離婚届をつきつけた日、私の家にやってきた。


「真白、まだサインもらえてないから…。ごめんね」


酷く、疲れている顔をしていた。


私は、梨寿さんを幸せにするはずが追い詰めていた。


不倫相手で、よかったではないか…。むしろ、その関係まで手に入れられたのに、他に何が必要だったのだ?


結婚なんて、出来ないじゃないか。


子供を作ってもあげられないじゃないか…。


「梨寿、疲れてる?」


「大丈夫」


「ねぇー。」


「しよっか?真白」


「うん」


梨寿の辛い気持ちや悲しみが、降り注ぐような交わりだった。


終わると、私は泣いていた。


「ごめんね。痛かった?」


梨寿さんは、私を抱き締めてくれた。


痛いのは、梨寿さんを追い詰めてしまったから…


旦那さんを愛していたのを、深く感じ取ってしまったから…


私は、梨寿さんと旦那さんの10年に割り込む事は出来ない


ハッキリとわかってしまった。


強い絆が、出来上がってる。


それは、たくさん苦しんだから


それは、たくさん泣いたから


それは、たくさん辛かったから


喜びや楽しさよりも、お互いに傷ついた時間が、とても長かったのだと思う。


「真白、大丈夫だから」


それでも、梨寿さんの優しさに甘えてしまう。


「ちゃんと、別れるから」


それでも、梨寿さんを独り占めしたくなる。


「ごめんね。子供作れない関係に引きずり込んでしまって」


梨寿さんは、私の頬に両手を当てる。


「そんな事で悩んでいたの?ありがとう。新しい居場所をくれて」


そう言って、キスをしてくれる。


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