何で、話してるのかな?
私の手が震えてるのに気付き、店長は握りしめてくれる。
店長には、何故か話したかった。
今まで、由紀斗と幼なじみの節ちゃんしか知らなかった。
「店長、私、母を見殺しにしたんです。」
「病気だったんですよね?」
「知っていたんです。朝から母が頭が痛くて堪らないと言っていた事を…。病院に無理矢理でも連れて行けばよかったのに…。私は、そうしなかった。水の力で、何もかも治ると信じていた母だったから、病院も入信してから一度も行ってなかった。だから、連れて行かなかったんです。」
「それは、大宮さんのせいじゃないですよ。」
店長は、優しく私を見つめてくれた。
「それでも、私は許せないんです。あの日の私を今でも…。そして、この足のせいで、嫌でもあの日々を思い出すんです。忘れたいのに…。」
店長は、私の背中を撫でてくれた。
「母の目が、ずっと怖かった。行かないと拒むと殺してやるって目で私を睨みつけるんです。誰のお陰で命があるんだ!思い出せ、思い出せ、思い出せ。布団叩きで何度も何度も叩き続けるんです。ごめんなさいって何度も言ってもやめてくれなかった。」
店長は、私の頬の涙を拭ってくれる。
「覚えていませんが、きっと最初は優しい母だったんだと思いますよ。」
「そうだと思います。最初からじゃないですよ」
店長も泣いてくれてる。
「不妊の原因は、私がどこかで母みたいになりたくないと思ってしまっているからかも知れないですよね。きっと、そうなんじゃないかな?って思うんですよ。」
「そんな事ないと思いますよ。これからだって、わからないじゃないですか…。」
「わかりますよ、店長。私達の元には、子供はやってきてくれないって。」
「そんな事ないです。」
「ありますよ。」
店長は、私の頭を優しく撫でてくれる。
「店長に何で話せるのかな?私ね、親友だった人がいるんです。節ちゃんって言ってね。結婚するまでは、とても仲良くて、この話も全部知ってたんです。」
「今は、仲良くないんですか?」
「結婚するって嬉しくてはしゃいだら、あいつ浮かれて気持ち悪いってsnsに書かれてね。その後、本人からおめでとうは言わない。続いたら、ちゃんと言うからって言われたの。節ちゃんのsnsがたまたま現れて見たら赤ちゃん抱いてた。シングルマザーになったみたいだけど、彼氏がいてね。」
店長は、私を引き寄せて抱き締めてくれた。
「店長、私ってそんなに嫌な人間なんでしょうか?」
「そんな事ないです。少なくとも私が知ってる大宮さんは、嫌な人間ではありません。」
「店長は、優しいですね。やっぱり、店長みたいな友達がいたら私の未来は違っていました。」
「これからも、旦那さんが出張の時は一緒に過ごしませんか?終わるのが、遅いので…。ご飯は、遅くなってしまいますが。」
「軽くつまんで、待ってます。」
私は、店長から離れて笑いかける。
「じゃあ、そうしましょう。連絡先、教えて下さい」
「はい」
店長と連絡先を交換した。
ここで、働いて店長と出会えて本当によかったと心から思ってる。
「明日は、何しますか?行きたいとこありますか?」
「あの、好きな俳優さんの映画みたいです。」
「大宮さんは、誰が好きなんですか?」
「吉宮凛です。」
「あー。猫顔イケメンですね。それって、BLものですよね?」
「はい、主人は嫌いだから…。」
「『鼓動の速さでわかる事』ですね?行きましょうか?」
「本当ですか?店長も好きですか?」
「わりと好きですよ。でも、何でBLもの見るんですか?」
「主人公達が、子供が出来ない事に悩んだり、結婚の壁に苦悩したりする感じが自分と重なって好きなんです。」
「確かに、男同士ですもんね。」
「はい」
店長は、キッチンに向かった。
ビールを持ってきて横に座る。
女の子同士だったら、苦しまずにすんだのかな…って、私は何を考えてるんだろうか…。
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