呪術探偵 呪井鴨四蓮の事解ぎ

塩野秋

1-「僥倖」

【1】


1 僥倖


 呪術とは——

 古来より人間の発展と、文化、民俗、精神——と共にあり、神や人の心から成る。天災、恨み、願い、神への畏れ。人々は人知及ばぬ力を呪術に頼り、信じ、信仰した。しかしそれも科学の発展により、全ては解明されていき、我々の未知への恐れは薄れていった。


 もし現代で、呪術の類を公に訴えたとして、信じてはもらえないだろう。呪ったこと、呪われたことの「証拠」はあったとしても、「呪い」自体の物証はない。

 過去、呪術の強みはそこにあった。呪術は政治を動かし、民を動かし、狂わせ、病を生み出し、信仰を生んだ。それは今も脈々と、続いている。

 テクノロジーが発展した現代においても、呪術は過去の遺物ではない。時代は働き方を変え、僧侶がサラリーマンを兼業するように、今もなお呪術受け継ぎ生業とする人間は、存在するのだ。


 そして現代で呪いに心を蝕まれる人も少なからずいることも、事実。

 言伝や紹介などなくとも、便利なソーシャルネットワーク時代。呪いに心を蝕まれた依頼人は、きっと一度は検索するはず。助けてくれる存在を。

 そして今日も一人、ふと、そのSNSアカウントに目を止める。


 少女は訝しみながらも、そのアカウントの文面を読む。それから、チラリと鞄に視線を落とした。見えているわけではないのに、その黒い封筒の存在を思うと、またうっすらと恐怖に襲われる。

 偶然見つけたこのアカウントは、どうやら探偵事務所のようだが、ずいぶん怪しい。それなのになぜか、惹きつけられる。


 こんなくだらない話を、聞いてはくれるだろうか。子供のいたずらだと、跳ね除けられてしまうだろうか。逆に、脅されてしまうかもしれない。のうのうと怪しいところに相談に行こうなんて、自分はいいカモだ。

 それでも——このほんの些細な不安を取り除くきっかけが欲しかった。

 ほんの少し迷う。

 高校生にもなって、おかしいだろうか。

 不幸の手紙に怯えている、なんて。

 願井有子ねがいゆうこは、震える指先でそのアカウントをタップした。


 ——お悩み相談、猫探し、浮気調査、呪術、、、事件解決。その他お役に立ちます。連絡はこちらまで。


【呪井鴨探偵事務所 事解ことほぎ承ります】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る