一緒に過ごしたかった

あの部屋じゃ、狭すぎるな。


最終日、千尋と一緒に過ごしたかった俺は、デラックスの空き部屋がないかホテルに尋ねた。


「開いてますよ。同じフロアでよろしいでしょうか?」


「頼みます。」


ホテルの人から、鍵を受け取った。


千尋を部屋で待たせて俺は、フロントに鍵を持って行った。


忘れ物があれば、渡してくれるだろう…。


部屋に戻ると千尋が、惣菜を並べていた。


「由紀斗さん、よかったんですか?」


「千尋と過ごしたかった。」


俺は、椅子に座った。


千尋から、ビールを受け取った。


「お疲れ様です。」


「お疲れ」


短い打ち合わせに、わざわざくるならリモートでいいじゃないかと時々思っていた。


「わざわざ来る意味あるのかな?って思いません」


「そうだな」


千尋が、同じ事を考えていた。


俺は、笑ってしまった。


「由紀斗さんも同じ事思ってたでしょ?」


「そうだな、ハハハ」


笑ってしまう。


「俺の前では笑ってて下さいね。勿論、泣いてる由紀斗さんも守ってあげたくていいんですよ。でも、笑顔が一番いいです。」


「ありがとう」


何だか照れ臭い…。


「俺、こっちに移動なった日に辞める覚悟してたんですよ。知らない人と出張ばっかり嫌だったから…。でも、由紀斗さんとの出張は嫌じゃなくて…いつか順番が回ってくるのを信じて働いてました。」


「そうだったんだな。てっきり俺は、嫌われていると思っていたよ」


「あんまり、今まで話さなかったですもんね。」


「そうだな。それに、千尋とは関わり合いが少なかったな。」


「片手で数えるぐらいしかペアになってませんでしたね。」


「竜ヶ崎が、多かったからな」


そう言って笑った俺の手を千尋は掴んだ。


「竜ヶ崎先輩とも、こんな風に話したんですか?」


「ヤキモチか?」


「すみません」


梨寿りじゅの件がなければ、こんな風に千尋とも話していない。だから、今まで誰とも話していない。仕事を終えると別行動だったよ。」


「よかった」


わかりやすいリアクションに、心がホッとするのを感じる。


「千尋は、わかりやすくていいな。」


「何ですかそれ」


千尋は、少し怒った顔をしてビールを飲んだ。


「怒らすつもりはなかったんだ。」


「怒ってませんよ」


ある程度、お酒がまわってきた頃。


千尋は、俺の隣にやってきた。


「由紀斗さんが、乳首感じやすいのは、奥さんのお陰ですか?」


「えっ…。そうかもしれないな。俺達は、子作りに縛られていたから、早く終わらす方法をお互いによく考えていたから…。」


そう言った、俺のスーツのネクタイをはずしてきた。


「千尋、したいのか?」


「したいですよ。すっごく」


そう言って、俺の手を持っていく。


スーツのズボンの上からでもハッキリと千尋のを感じる。


「由紀斗さんが、俺を愛してなくてもいい。心は、奥さんのものでいい。だけど、俺といる時は俺だけを見て欲しい」


千尋の目から涙が流れてくる。


「千尋、泣かないで」


俺は、千尋の頬に手を当てる。


「こっちにきて」


ベッドに誘導されて、座らされた。


「奥さんは、こうしてくれる?」


そう言って、ズボンを脱がされる。


「ここ何年もないよ。」


そうだ。


俺達は、子作りに縛られておざなりな営みを繰り返した。


付き合っていた頃のように、相手を思う丁寧な愛撫もしなくなった。


だから、お互いがお互いの快楽を優先した。


相手の反応も伺わずに、自己を満たすだけの行為を繰り返した。


「汚いから、やめてくれ。千尋」


「汚くなどないよ。」


そう言うと俺のを丁寧に優しく愛撫する。


「ダメだっ」


久しぶりの快感にすぐに果ててしまった。


「もういい、きてくれて」


「駄目だよ、丁寧にしなくちゃ、壊れちゃうよ」


優しくて、丁寧で、相手を思う交わり


その優しさに涙が止まらなかった。


梨寿も、こんな風に愛されてしまったから別れたくなったんだな。


こんなに、優しくされたら好きになってしまうのわかるよ。


千尋の優しい愛撫に、心も体もとろけていった。


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