ミス

市木は、先に手続きをする。


「えっと、本気で言ってます?」


「はい」


「マジかよ」


市木が、頭を抱えてる。


「どうした?」


「桜庭が、予約ミスってて」


「それは、俺の分も?」


「はい」


「部屋がとれてないって事だよな?」


「はい」


「どうするかな?」


俺の言葉に、市木はフロントに訪ねる。


「どっか、開いてませんか?」


「開いていますが、デラックスツインしかありません。そちらで、よろしいでしょうか?」


「よろしいです。何でも」


「市木、それは自腹になるな」


「あー。そうですよね。スタンダード料金までしか出ないんですよね。俺が、出しますから…お気になさらず。」


そう言って、市木は予約をとった。


スーツケースをゴロゴロと押す。


「すみません。一つの部屋で」


「いや、それは構わない。」


「明日からは、ちゃんととれてるみたいなんでよかったですね」


「ああ、そうだな」


市木と二人で同じ部屋に過ごすなんて、何か変な感じだな。


「何食いに行きますか?」


「居酒屋でいい。後、ホテル代俺も払うから」


「いいですよ。居酒屋、近くにあります。行きましょう。スーツ脱いで」


そう言って、市木は笑った。


俺は、服を着替える。


スーツをかけながら、梨寿りじゅが今頃、浮気相手といる気がして胸が締めつけられる。


「先輩の私服、初めてみました。」


「俺も、市木の私服初めてみた。お洒落だな」


市木は、俺より身長が高い。


「じゃあ、行きましょうか」


「ああ」


ホテルの部屋を出た。


市木と並んで歩くと、俺の小ささがよくわかる。


イケメンなのに、何故独身なのだろうか?


フロントで、市木は鍵を預けた。


すぐに、居酒屋についた。


「ビールでいいですか?」


「ああ」


「何食べますか?」


「何でもいいから、頼んでくれ」


「何でもが、一番困りますね」


そう言いながらも、市木は適当に注文をしてくれた。


「お疲れ様です」


ガチンとビールジョッキを合わせる。


「うまー。」


市木は、うまそうにビールを飲んだ。


枝豆を食べながら、市木が俺を心配そうに見つめる。


「大宮先輩、何か悩んでますか?」


「えっ、いや」


「俺で、よかったら聞きますよ」


そう言われて、昨日の話をしてしまった。


「好きな人は、確実に職場ですね」


「どんな男か見てやりたい」


「見るべきですよ」


「子供がいないと引き留められなくて、歯痒いんだ。いってもいいよって言わなくちゃいけない気がして」


「そんなわけないじゃないですか?大宮先輩が好きなら、行かないでくれって言っていいんですよ」


「市木、それは出来ないんだよ。俺達は、恋人同士じゃない。だから、好きや嫌いでもう一緒になどいない。妻に好きな人が出来たなら、手を放さなくちゃいけないんだ。」


「先輩、泣いてますよ。よっぽど、奥さんが好きなんじゃないんですか?だったら、行かないでって言えばいいんじゃないですか?」


「市木、それは言えない」


俺は、涙を止められなかった。


梨寿を愛してる


でも、まだ四十しじゅうだ。


もしかしたら、その人だったら梨寿は子供を授かれるかもしれない。


そう思うと引き留めたくなかった。


俺が、梨寿に同じ事を言ったら梨寿もそうするのがわかる。


それだけ、俺達は二人の時間を重ねてきた。


「戻ったら、離婚届にサインするんですか?」


「そのつもりだ。」


「何でですか?子供がいないってそんなにいけない事なんですか?」


「子供がいなくてよかったんだよ。逆に…。」


「悲しすぎますよ。先輩」


「そうかもな」


俺は、ビールを注文した。


「ただ、梨寿は両親がいなくて姉だけなのだが…。俺は、両親がいるだろ?そっちの説得が大変かもな。」


「うまくいかない方が、いいですよ。そんなの」


「市木は、優しいな。他人事なのに…。」


「独身の俺からしたら、家族の話をしない大宮先輩は貴重でしたよ。すごく」


俺と市木は、ベロベロになるまで酔っぱらった。


フラフラしながら、二人で部屋に戻った。




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