Break Eyes

ひまち

第1話 プロローグ

 少年は夢を見た。幼い頃の夢だ。

「はあ、こりゃもうダメかねぇ。カツミ、お前だけ逃げろ。」

 カツミと呼ばれた幼い少年は、強く首を振る。

「やだよ親父!そしたら親父はどうなるんだよ!」

 少年の叫びにも近いその言葉に、父親は薄く笑い答える。

「死んじまうだろうなぁ、俺は。」

「そんな、親父・・・」

 肩を落とし、悲しみを示す少年。

「どのみち、俺は逃げられやしねえよ。”目”も片っぽ取られちまったしな。残った左は、お前に託す。」

 そう言って父親は少年の左目に手をかざした。少年の黒かった瞳は、森のような深い緑色になった。

「・・・わかったよ。俺、逃げる。」

「しっかり、生きろよ。」

 炎の中に消えていく父親を背に、少年はその場から逃げた。

「!また、あの時の夢か。」

 目を覚ました彼は、小さく呟いた。夢の中では7歳だったが、今は15歳だ。

「親父、絶対に仇はとるから。」

 深緑の左目が暗く光った。



 別の場所では、少女が夢を見ていた。少年と同じように、幼い頃の夢を。

「どうしたもんかねぇ、カナエはさっさと逃げな。」

 カナエと呼ばれた少女は小さく頷くが、同時に疑問を投げかける。

「おばあちゃんはどうするの?」

 少女の祖母は少し悲しそうな、しかしどこか嬉しそうな顔をして言葉を紡ぐ。

「なぁに、どうにかしてみせるさ。でも、そうさねぇ。今からカナエに私の”目”をやるよ。片っぽ取られちまったけどねぇ。こいつがカナエを守ってくれるさ。」

 そう言って少女の右目に手をかざすと、少女の瞳は黒から燃えるような紅に染まった。

「ほらさっさと逃げな!絶対に振り返るんじゃあ無いよ!」

「・・・!」

 少女は走った。自分ではどうすることも出来ない、そんな怒り、悲しみ、恐怖を背負って。

「!おばあちゃん・・・」

 目を覚ました彼女は、今は13歳、夢の中ではまだ5歳だった。

「必ず・・・仇は討つから。」

 紅の右目が強く光った。


 この物語は2人の復讐の物語である。

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