第2話 不思議な聖書

 英知さんと別れた後、僕は彼女の車に乗せられてまっすぐに目的地にたどり着いた。少し山奥にある場所が開けて見えてくる。


「これ、無理ですね」


 蔵の数を見渡して嘆息した。広大な領土だ。


 山二つ三つを更地にした様な広さで建物の数も半端なものではない。


 しかし、それにしても随分と古い屋敷ではある。


 これは名家だ。


「つかぬことをお訊ねしますが地主だったのですか?」


「ええ、それと商いを並行していた家です」


 厭味がなく正直に答える女性だと思った。普通なら血筋の自慢話の一つや二つ出て来そうなものだが。


「こちらへどうぞ」


 正殿とでも言えば良いのかな。一際、立派な屋敷があり、彼女は気軽に入って行った。恐る恐る入る。


「失礼致します」


「先生、いらっしゃいませ」


 英子さんが床で正座し、頭をうやうやしく下げた。


「英子さん、事情がよく判らないのですが」


「先生は教会の宝を眼にしましたでしょう?」


「ええ、驚きました。よくあれ程のものが残っていたものです」


「あれは先代が寄贈したものなのです」


 あれ程のものを寄贈するとは。では隠された聖書とやらは一体いかなるものなのか。


「何の文体で描かれているのですか?」


「中世中国の文体で」


なるほど、となると疑問が出て来る。


「英子さんの祖先は」


「御察しの通りですわ」


「主教級ですか?」


「この日本ではね」


千年以上に亘り、教えを守り続けた訳か。


「米国との関係は」


「明治維新以後に」


「判りました。探しましょう。僕自身も興味があります」

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