第2話 言えない想い

私、川崎 縷々かわさき るるにはもう五年以上になる片想いの相手がいる。

 クリスマス、お誕生日、バレンタインデー。

 この3つだけ毎年毎年ぶっきらぼうに、

「はい!あげる!」

 って渡してる。

 恋心は内緒。駄々漏れでも……内緒なの。


 

 選ぶのは何ヵ月も前から選ぶし、ドキドキしながらいつも渡してる。

 でもやっぱり内緒なの。


彼はめちゃくちゃ時間にルーズだし……ほんと、どこがいいのか、自分でも謎。

 だけどホントに大好きなんだ。


「ってかさーホントに、どこがいいの?」

 買ってきたスタバのアイス・チャイ・ラテを飲みながらまるちゃんは切り込み隊長宜しく私に突っ込んできた。辛辣うー。

「突然何?」

「なんで恋したの?」


 私は思い出したように話し出した。

「五年前かー。あの頃の私はぁ仕事で行きずまっていたんだよ。元来強く見えるらしい私には……頼れるものも、泣ける場所も無かった……。

 たまたまさ仕事で一緒に移動する事があってさ、彼の車で帰ってくる途中、色んな事が重なって、心のダムが決壊したんだろうね……。

 涙が止まらなくて、車の中で泣き崩れちゃった。その時言われたんだ」


「なんて?」


「皆が君の事どう思ってるか俺は知らない。でも俺はわかってるから、大丈夫だよ」

 って。


 あれが私の初恋。


 何がわかってるのかとか

 ホントにわかってるのかとか


 今なら思う事沢山あるんだろうけど……

「私……あの一言に救われたの」



 年の差10歳、私にはまぶしいくらいカッコいい。


「コクらないの?」

「コクらないよ」


「なんで?」

 まるちゃんは思ってるだけが不思議らしい。

「恐いからだよ……」

「恐い?」

 不思議そうな顔をしてる……。

「コクったらさ、答え出ちゃうじゃん」

 意味がわからない。

「だからさ、yes・noが出ちゃうでしょ?それが恐いんだよ」


 ベランダで夕日を眺めながら、まるちゃんはいった。

「確かにさ、答え出ちゃうし、それは望んだ答えじゃない場合もあるけどさ……でも動かなければ、欲しい答えも手に入らないかも知れないよ?」


「うん、いいの。それでもこの関係が壊れるより百倍ましじゃん……」

 ルンの言うことが良くわからないよ……。

「壊れないよ!」

 彼はそんなタイプじゃないでしょ?


「コクられてたよ」

「そか……」

 ルン……。

「付き合うってさ!ばかじゃん!」

「だね……」

 ルン……。

「なんかお祝いしなきゃね……」

 ルンってほんと、なんでそうなんだろう。

「ばかじゃん!」

「だから、そだよって言ってんじゃん……」

 このばかは凄い素敵な笑顔でいった。


「代官山にさー、素敵なドライフラワーショップあるんだよ」

 納得いかない私はムスってした顔で聞いていた。

「まるちゃん一緒に行ってくれん?」

「いつ?」


「善は急げって言うじゃん。今日!」

 泣きそうな顔でニコニコ笑ってんじゃないよ。


「ルンは……ばかじゃないね!大馬鹿だよ」


 代官山【メモリアル】

 店内を覗き込むと……小さなライトが点在している。若干薄暗く妖艶なその空間は、黒髪の青年にとてもよく似合っていた。

 この人が店長さんだろうか……。

「魔法使いさんですか?」

 キョトンとした顔をして「魔法使い?」ですかね。

 笑ってた。


「どんな魔法をかけて貰いたいの?」

  深月さんは、私の拙い気持ちを聞いてくれた。


「一個だけ聞いていい?」

 綺麗な透明感のある声は、人の気持ちを素直にさせる。

「?…………はい」

「伝えたくは無かったの?」


「…………………………伝えたかったですよ。ただ、弱虫に権利は無かったですね」

 小さな目から涙が止めどなく流れる。


「まだ間に合う。任せてくれる?魔法かけてあげるよ」

 深月さんが沢山あるなかから選んだ花は……彼女の心を代弁していた。


 【ヘリクリサムのきれいなルビーピンクに、忘れな草のブルー、緑に白を間に差して可愛いブーケが出来た】


 

 「渡しにいくんだよね。行ってらっしゃい!」


 【ヘリクリサムの花言葉、永遠の思い出

  忘れな草の花言葉、私を忘れないで】

 深月さんのかけた魔法に彼は気づいてくれるのだろうか。


 1ヶ月後……メモリアルの店内には甘ーい空気を纏った年の差カップルが、お返しに可愛いクッキーを焼いてきてくれたと言う。


 

 かけてほしい魔法があったら代官山のドライフラワーショップ【メモリアル】を覗いてみて下さい。

 俺が誠心誠意お手伝いをいたします。

  

 

 

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ドライフラワーショップより愛を込めて @ciesca

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