巫女ルナはソラ神様に恋をする

宮端 海名

第1話 木の影にいる神様

「失せろ、ガキが」


その人はいつもそう。

私を見ると指の爪をかじりながらいつもイライラ暴言を吐き散らす。


「お腹がへって仕方がないんでしょ?

 そんな木の皮が腹の足しになるわけないわ」


「黙れガキ!どっか行かねぇと噛みつくぞっ!」


その人はお腹を空かせたひな鳥のように大きな口を開けて私に噛みつこうとする。


が、彼が本気で噛みつかないことを私はもうとっくの昔に知っている。


「っうぐ!?」


私はお手製のパンを彼の口に無理やり突っ込んやった。


「えへへ、美味しいでしょ?初めてだったけどあなたのために頑張ったんだから!」


「う…うぐ…」


そんな可愛らしいことを言えば、彼はちゃんと食べてくれることを私は知っている。



彼がご神木に住み着いたのは1ヶ月前。

私たち妖精族の命とも言えるご神木は樹齢5千年を超える大木。

なのに、あろうことか彼は幹の真ん中に大きな巣穴を作ってしまった。


もう村のおじいちゃんたちはカンカン!

彼を捕まえて酷いことをしようって会議してた。


そんなに怒らなくていいのにね。

私たちだってたまにご神木を傷つけて樹液を取るもの。


穴開けられたぐらいで大袈裟だよ。



(大丈夫だよってご神木様も言ってるのに)



「おいガキ!」


頭の上から大声がしたと思ったら私は彼に首根っこを掴まれた。


「だから、ルーナっ!私の名前はルナよ」


「ガキはガキだっ!クソまずい飯食わせやがって」


「え?美味しくなかったの…?」


嘘…

塩加減はバッチリだったのに。

一番綺麗に焼けたやつを持ってきたのに。


「あ…」


彼は少し戸惑った顔をした。

…そーよ。まずいものを無理やり口に入れられたら誰だって嫌だもの…


「…ごめんなさい。次は…もっと頑張るから…」


「あーもう!」


次の瞬間、私は彼の腕の中に引き込まれたかと思うとスルスルとご神木の頂上まで連れてかれた。

  


あっという間にご神木のてっぺんにつき、

彼は私を膝の上に座らせた。

だけど私は怖くて彼にひっつく。


「イヤっ!高い!」


「チッ…っとにうっせぇなぁ…お前妖精族じゃねぇのかよ」


「っ!…私は飛べないの、落ちこぼれなの!


 …だから一人でご神木様の番をしてるの…」


意気地なしの私はまた彼に怒鳴られるんじゃないかと思っていた。

しかし予想を外れ、彼は優しく私の頭を撫でた。


「大丈夫だから、な?目ぇ空けろ。こいつもお前を絶対落とさねぇって言ってるぜ?」


(え?)


私はおそるおそる顔を上げる。


「ご神木様の声が分かるの?」


「…おう」


私は目を見開いて飛び上がった。


「本当に?!本当の本当の本当に?!!」


「ちょ、おい!落ち着け!落ちるだろ!」


彼は今度は私をきつく抱きしめる。

彼は長めのため息をついた。


私は少しドキドキしながらもう一度彼の顔を見る。


「ねぇ、ほ…」


「本当だよ!聞こえるよ!…まあこの村の中じゃこいつの声を聞ける奴はお前しかいないけどな」


(なんでそんなことが分かるんだろ?)


村じゃ私の言うことを信じてくれる人なんて誰もいなかった。

彼が寂しそうだから会いにきてくれって私に頼んだのもご神木様だ。


「…もう怖くねぇな?ほら」


彼は私を正面に向かせる。

夕焼けが海を赤く染めていた。


「…こんなの初めて見た…真っ赤ね…とても…とても綺麗」


こんな綺麗な景色は生まれて初めて見た。

ご神木様の上から見えてたなんて…!


「め、飯の礼だよ」


彼はなにやらゴニョゴニョしているけど

私は目の前の景色に夢中だった。


「私…空飛びたいな」


「あ?」


ねぇ?いいことを思いついたの。


「空を飛ぶわ!飛べるようにする!そしたらあなたをあの海の向こうまで連れてくわ!」


彼が目を見開いた。

彼の目は空と同じ青色。とっても素敵。


「約束よ!いっっぱい練習するから!だからまだ…ここにいてね?」


彼はなにも答えない。

だったらせめて伝わるようにと私は彼を思い切り抱きしめた。


怒鳴られるかな?

引っぺがされるかな?


ううん…彼はこういう時きっと-


彼は今度こそ私の予想通りに動く。


「オーラ…大好きよ」



           ☆


あれから九年後。

オーラは冷たい地下牢に磔にされていた。


こんな血まみれで汚いところにあの子が来るはずもなく。



(何年経ったんだろう…あの子はもう飛べるのか…)


「早く…かえりたい…」


オーラは目を閉じ眠りについた。



                  つづく

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