いったい、どんなタイトルにしたら売れると思いますか!?

寺条 好

第1話 春になると不審者って増えるよね。

春。出会いの季節であり、別れの季節でもある人生の転換期。

美しい桜が散る中で胸の内に抱くものは惜別か期待か。

淡い桃色と共に僕らの生活は変化する。

涙も笑顔も引き連れて、新生活がいま、始まる。


……はずだった。


「クソッたれがぁぁぁ!!!!」

全力で、全開で、全部出し切って、全裸で、叫んだ。

「きゃああああ!」

「捕まえてー!変態がっ、変態がいる!!!」

「うおおおおっ、こんなところで捕まってたまるかよぉ!」

春。僕は全速力で駆けていた。長い長い廊下を全裸で。

幸いなことにチソポには風で飛ばされてきたであろう学級新聞が張り付いているため最悪だけは回避している。

まさか、ア〇ラ100%をリアルでやる羽目になるとはだれが思おうか。いや、思うはずがない。

「そこの君っ!止まりなさいっ!」

目の前に眼鏡をかけた白衣の女性が立ちふさがる。確か入学式で挨拶していた保健室の先生だった気がするような……って、そんなことは今はどうでもいいっ!

ここで捕まったら死ぬっ。もちろん、肉体的ではなく社会的にだ。

不幸中の幸い?なことに全裸ではあるがサングラスを付けているため、変態性にバフをかけつつ身バレという危険性をかろうじて防いでいた。

しかし、捕まれば……言うまでもないだろう。

「すみませんっ、先生っ!」

心の底からの謝罪をすると、目を閉じながらも両手を広げてバッと仁王立ちする先生の股を股間の新聞を片手で抑えつつ、スピードそのままにスライディングして通り抜ける。

「ここで立ち止まるわけには、いけないんです」

あそこまで、あそこまで行けば服が待ってるんです。

だから今は許してくださいっ。

新聞がバタバタと音を立てながら長い長い廊下を颯爽と駆ける。放課後だから人が少ないのがほんとに救いだ。

校舎に照り付ける夕焼けが僕の体を黄金色に照らす。

新聞を片手で抑えながら、階段を二段飛ばしで昇る。

文学的な表現と共に僕は駆ける。一陣の風となって。

はぁ、はぁと息を切らした分だけ変態の度合いが高まる。

そして、ゴールまであと少しというところまで来た。

「おいっ、あそこだ校舎内の変態がいるぞ!」

あーあ。まじかよう。後ろから四人の人影が追いかけてくる。

ユニフォームからしてサッカー部だ。校舎内に変態が現れたとでも聞いて野次馬根性で追いかけてきたんだろう。

普通はさぁ!不審者には近づかないだろ!こいつらやばすぎだろ!

「捕まえたら、部費アップらしいぞ!生徒会長が言っていた!お前ら早く捕まえろ!!!」

せ い と か い ちょ う!!!!

「ざっけんなよ!あのクッソ野郎!」

死ぬ気で走る。つい昨日までこの言葉を本気で実行するときが来るとは思いもしなかった。

サッカー部は早い。当たり前のことだが片手で新聞を抑えていて走りで勝てるほどあいにく僕は早くない。

片手で抑えていたら、だ。

どうする。いや、分かっている。しかし、それは一度でも減速してしまったら即死を示す。

「やるしか、ないっ!」

そう振り切ると完全ア〇ラ100%スタイルになった。

うおおおおおおっ。

心で叫びながら駆ける。

「早く追えっ!早く!」

「あ、あいつ。ア〇ラ70%の状態からついに100%で走り始めやがった」

「あ、あんな変態。捕まえたくないっす部長!」

「あの変態、案外いい尻シテナイカ」

遠く後ろで声がする。こっちは死ぬ気で走っているんだ、ぐんぐんと差を広げて逃げる。あと、話の内容からして捕まってはいけない理由が一つ増えた。


ぜぇ、はぁと息を切らしながら目的の場所へとようやくたどり着いた。

サッカー部は角や階段を使って撒いて来た。周囲にはもう人がいない。

別棟の五階の角ににひっそりとたたずむ教室兼部室。

中からはワイワイガヤガヤと声がする。

諸悪の根源どもめ。許すまじ。

追放されたなろう系主人公の比じゃないほどの復讐心を胸に抱きながらその部室の扉を開ける。

その部屋のプレートには『文学研究資料室』と書かれているが……

部屋を手当たり次第に思いっきりバンッと開ける。

「おいっ、部長はどこだ!早く出せ!!!」

そう、全裸で怒鳴りつけながらずかずかと部屋の中へと入る。

勢いよく開かれたドアにかけられたプレートは春風を伴って、くるりと回転する。

そう、『ラノベ研究部』それこそがこの部屋、いや秘密基地(仮)の名前だった……。











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