第6話 父ちゃんだって大変なんだ・・・

「ク~ワナ、クワナ、ク~ワナ、求人!」

「ク~ワナ、クワナ、高収入!!」


喧しいCMソングをわめき散らしながら、私のアド・トラックは繁華街を駆け巡る。

休日にここへ来るたびに煩わしいと思っていた存在に、まさか私とそのトラックが選ばれたときは、正直ショックだった。だが、そうでもしなければこの会社は生きてはいけないというのも、また事実であった。


UAGとμ社が広告戦争アドウォーズとかいう馬鹿なことをしだしてから、物流の体系はがらりと変わった。一定数の広告を見れば実質無料で貨物や荷物、そして郵便を転送できる、ATS(アド・トランスポート・システム)というものを二社がこぞって開発して、物流面でも過度な競争を始めたのだ。それらに巻き込まれて既存の運送会社はほぼ絶滅、陸上輸送量も何なら一日一往復の貨物列車ーーそれも旅客列車に小さなワゴン車をくっつけたーーで十分事足りるくらいになった。


僅かに生き残った会社達はUAGかμ社にひれ伏して、余った長距離トラックのコンテナに広告を張り付けて、その広告収入アドセンスで何とか食いつないでいるというのが今現在この国の運送会社の状況であった。それでも依然厳しい状況には変わりなく、今まで残っているのは自分の会社を含めて僅か5社にも満たない。


「・・・よし、そろそろお昼にしようか・・・」


私は喧しいCMを停止させ、誰にも見られないように車を降りて、飯を食うことにした。すると、どこからかうめき声が聞こえてきた。


「うぅ・・・」


見ると、コンビニの前で男が倒れているではないか。今までだれも見向きもしなかったのだろうか。都会は薄情だ。いつものことだが。


「おい、あんた。・・・大丈夫か・・・?」

「うぅ・・・何か・・・何か、食べるものを・・・昨日から・・・何にも食ってないんです・・・」


・・・


「もぐもぐ、がつがつ、むしゃむしゃ・・・」

「久しぶりの飯というのは分かるが、もっとゆっくり食えよ、そのうちむせるぞ。」

「もぐもぐ・・・むぐっ!?・・・」


思っていた通り男はむせたので、アド・ウォーターも飲ませてやった。のどに詰まったアドむすびをアド・ウォーターで呉君と嚥下した彼は、すっかり元気を取り戻していた。


「あざっす、助かりました!!なんてお礼をしたらいいか・・・」

「ああ、お礼ならいいよ。しかしあんたがポイント21から来たとは驚いたねぇ、あそこはアド・マインが埋められているんじゃなかったか?」

「ああ、ちょっとした、”おまじない”の言葉で通過できたんですよ。」

「へぇ、おまじないねぇ・・・」


どうせ口から出た出まかせだろうと、この時の私は思っていた。ただ、飯の恩義に報いる為何か手伝いをさせてほしいと、チャラい恰好の若者にしては”カタギ”なことを言う所から見て、少なくとも悪い人ではなさそうだった。


「お願いします!」

「ま、まあまあ落ち着いて、とりあえずうちの職場にいこう。話はそれからだ。それで・・・あんた、なんていうんだい?」

「金山トオルです!」

「じゃあトオル、まずは俺のトラックに乗りな、ああ段差が大きいから気をつけて。」


トオルが乗り込むのを確認して、私も早速乗り込もうとした。が・・・


「・・・父ちゃん?」

「ん?」

「父ちゃんなの・・・?」


!?は・・・ハルタ・・・どうしてここに・・・?


「父ちゃん・・・なんでアドトラックに乗ってるんだよ・・・父ちゃん、アドトラックが嫌いじゃなかったのかよ!」


ハルタ、違うんだ、これには深い訳があるんだ・・・


「そうか、だから俺を乗せたくなかったんだね・・・父ちゃんは長距離トラックじゃなくて、アドトラックに乗っていると、ばれるのが怖くて。」


父ちゃんがな、父ちゃんがこれを運転するのは今日が初めてなんだよ、いつもこんなトラック運転しているわけないじゃないか・・・頼む、信じてくれハルタ・・・


「・・・父ちゃんの嘘つき!!」


待ってくれ、違う、違うんだハルタ・・・


「父ちゃんなんか大っ嫌い!!」


ああ!!行かないでくれ・・・ハルタ・・・


とうとう私は、一番見られたくない所を、息子に見られてしまった。私のことを自慢に思っていた息子の夢を壊してしまった・・・

ああ・・・家に帰ったら、ハルタになんて言えば・・・




ごめんな・・・ハルタ・・・今の時代、父ちゃんだって大変なんだ・・・

私は、休憩時間が終わりを告げてもしばらくそこに立ちすくんでいた。

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