第6話 父ちゃんだって大変なんだ・・・
「ク~ワナ、クワナ、ク~ワナ、求人!」
「ク~ワナ、クワナ、高収入!!」
喧しいCMソングをわめき散らしながら、私のアド・トラックは繁華街を駆け巡る。
休日にここへ来るたびに煩わしいと思っていた存在に、まさか私とそのトラックが選ばれたときは、正直ショックだった。だが、そうでもしなければこの会社は生きてはいけないというのも、また事実であった。
UAGとμ社が
僅かに生き残った会社達はUAGかμ社にひれ伏して、余った長距離トラックのコンテナに広告を張り付けて、その
「・・・よし、そろそろお昼にしようか・・・」
私は喧しいCMを停止させ、誰にも見られないように車を降りて、飯を食うことにした。すると、どこからかうめき声が聞こえてきた。
「うぅ・・・」
見ると、コンビニの前で男が倒れているではないか。今までだれも見向きもしなかったのだろうか。都会は薄情だ。いつものことだが。
「おい、あんた。・・・大丈夫か・・・?」
「うぅ・・・何か・・・何か、食べるものを・・・昨日から・・・何にも食ってないんです・・・」
・・・
「もぐもぐ、がつがつ、むしゃむしゃ・・・」
「久しぶりの飯というのは分かるが、もっとゆっくり食えよ、そのうちむせるぞ。」
「もぐもぐ・・・むぐっ!?・・・」
思っていた通り男はむせたので、アド・ウォーターも飲ませてやった。のどに詰まったアドむすびをアド・ウォーターで呉君と嚥下した彼は、すっかり元気を取り戻していた。
「あざっす、助かりました!!なんてお礼をしたらいいか・・・」
「ああ、お礼ならいいよ。しかしあんたがポイント21から来たとは驚いたねぇ、あそこはアド・マインが埋められているんじゃなかったか?」
「ああ、ちょっとした、”おまじない”の言葉で通過できたんですよ。」
「へぇ、おまじないねぇ・・・」
どうせ口から出た出まかせだろうと、この時の私は思っていた。ただ、飯の恩義に報いる為何か手伝いをさせてほしいと、チャラい恰好の若者にしては”カタギ”なことを言う所から見て、少なくとも悪い人ではなさそうだった。
「お願いします!」
「ま、まあまあ落ち着いて、とりあえずうちの職場にいこう。話はそれからだ。それで・・・あんた、なんていうんだい?」
「金山トオルです!」
「じゃあトオル、まずは俺のトラックに乗りな、ああ段差が大きいから気をつけて。」
トオルが乗り込むのを確認して、私も早速乗り込もうとした。が・・・
「・・・父ちゃん?」
「ん?」
「父ちゃんなの・・・?」
!?は・・・ハルタ・・・どうしてここに・・・?
「父ちゃん・・・なんでアドトラックに乗ってるんだよ・・・父ちゃん、アドトラックが嫌いじゃなかったのかよ!」
ハルタ、違うんだ、これには深い訳があるんだ・・・
「そうか、だから俺を乗せたくなかったんだね・・・父ちゃんは長距離トラックじゃなくて、アドトラックに乗っていると、ばれるのが怖くて。」
父ちゃんがな、父ちゃんがこれを運転するのは今日が初めてなんだよ、いつもこんなトラック運転しているわけないじゃないか・・・頼む、信じてくれハルタ・・・
「・・・父ちゃんの嘘つき!!」
待ってくれ、違う、違うんだハルタ・・・
「父ちゃんなんか大っ嫌い!!」
ああ!!行かないでくれ・・・ハルタ・・・
とうとう私は、一番見られたくない所を、息子に見られてしまった。私のことを自慢に思っていた息子の夢を壊してしまった・・・
ああ・・・家に帰ったら、ハルタになんて言えば・・・
ごめんな・・・ハルタ・・・今の時代、父ちゃんだって大変なんだ・・・
私は、休憩時間が終わりを告げてもしばらくそこに立ちすくんでいた。
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