橋井オットー編

第5話 父ちゃんの仕事はな・・・

この日もいつもと変わらない朝だった。


「おはよう」

「あら、今日は早いわね貴方。待っててね、もう少しで朝ごはん出来るから・・・」

「ああ、急がなくていいよ。たまたま早く起きただけだから・・・」


髭剃りと歯磨きを済ませて、私は新聞を読む。分厚い広告のチラシに挟まれた、わら半紙一枚にも満たない、片面だけの新聞。これはUAGタイムズのごく一般的な形態であった。読み終えると二階からドタドタとかけてくる音がする。ハルタはいつも朝から元気がいい。


「父ちゃん、おはよう!」

「ああ。おはよう。」


息子が来たと同時に朝ご飯の準備もできたので早速皆でいただくことにした。今日のメニューは広告が予め焼き付けられた広告合成パンにスクランブルエッグと合成腸詰肉のシンプルなモーニングだ。もちろん、全てUAGフードの製品である。


「「「いただきます。」」」


妻のさか江は一口ずつおしとやかに、息子のハルタはアドバターもつけてむしゃむしゃとがっつき、そして私は、マスタアドを付けて少々ピリ辛にして食べる。傍に会ったリモコンで、食卓のテレビをつけて朝のニュースを確認する。流石にテレビ番組は新聞ほど広告だらけではないものの、最近は公共放送もCMを流すようになった。


〈・・・昨日、偉大なる我らがUAGはポイント21にて憎むべきμ社の広告の作動を確認しました。広告は偉大なる我らがUAGのアド・ロイドが攻撃の上、速やかにUAGの広告へと上書きを行いました。・・・〉


「このポイント、ようやくμ社の呪縛から解放されたのねぇ・・・」

「ここが落ちればこのエリアは全てUAGに統一されるな」


〈・・・また、それまで愚かしくもμ社に従っていた付近の村の管轄区にて、植物型広告兵器の残骸が確認されたため、近く偉大なるUAGは広告浄化施策を行うとのことです。〉


「父ちゃん、これでもう悪いμ社は居なくなったんだよね?かっこいいUAGがやっつけてくれたんだよね?」

「ああ、そうだよハルタ。もう悪いμ社は居なくなったんだよ。」


〈・・・以上、モーニングACEでした。提供は偉大なるUAGテレヴィジョンがお送りいたしました。UAG万歳、万歳、万々歳。UAGに栄光あれ。{これより5時間はCM時間となります。}〉


ピッ、とテレビを消した。そろそろ仕事に出なければならないので私は支度をすることにした。私の仕事はトラックの運転手である。そしてその仕事を息子は誇りに思っているらしく、「父ちゃんの仕事はデカいトラックを運転するんだぞ、かっこいいんだぞ!」とよく学校で自慢しているそうだ。知らぬが仏とはよく言ったものだ・・・


「ねえ父ちゃん、いい加減俺も父ちゃんのトラックに載せておくれよ。絶対邪魔しないからさー!」

「だめだ、ハルタ。あれはまだもう少し大人になってから乗せてやるから。」

「もうそれ3年も聞いてる!いつ乗せてくれるのさ!」

「そのうちな。」一生乗せる気はない。乗せるわけにはいかない。妻もそれについては理解してくれている。


仕事着に着替えて、妻と息子に行ってくるよ、と告げて私は家を出て、車を飛ばした。ここに務めるようになった最初のころはもっと近ければいいのに、と出勤途中でぶつくさ文句を言っていたものだが、今となってはむしろもっと遠くでもいいのにな、とぼやいてしまうのだ。・・・それほど、私の仕事はとてもハルタに見せられるような仕事ではない。


そして、私は仕事場に着いた。職場の同僚にあいさつを交わしてからタイムカードを切り、自分が運転するトラックへと乗り込む。そのトラックを見るだけで、いつもため息が無限に湧いてくる。トラックを運転するだけで、何を大げさなと言いたくなるだろうが・・・




それが、繁華街でやかましいCMソングを流しながら巡回する、「アド・トラック」と知れば、おのずと納得できるであろう。






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