第41話 望んだ未来へ
馬車が揺れる。
ここは魔法の世界だけど、自動で馬車は動かない。
なぜかしら?
「ねぇ、どうしてだと思う?」
馬の手綱を握る者からの返事はない。
どうやら、まだ不貞腐れているらしい。
あれからもう一年以上も経つというのに。根に持つタイプは嫌われるんだよ?
あの記念式典の日、勇者レクソスと魔王デュゥ・クワイタスは死亡した。
そして、錯乱する二人を止めて世界の秩序を創り替えた聖女、ウルティア・ナーヴウォールも死亡した。
死してなおも世間を騒がせているのだから、私達三人は後世に名を残すだろう。
王立グランチャリオ魔法学園のボルトグランデ寮とウンディクラン寮にはレクソスとウルティアの銅像が建っているらしい。
デュゥ・クワイタスはノームレス寮に在籍していたのだから、是非とも彼の功績も讃えてあげて欲しいものだ。
さて、今日は大事な日なのに、こんなにものんびりと馬車を進めていて間に合うのかしら?
「きっとエレクシアは綺麗だよ。そう思うでしょ、デューク?」
「……知らん」
「まだ怒ってるの?」
「当然だろ。俺を騙して勝手に殺した。しかも自殺までして世間を
「でも、これで私達は自由よ」
実は私もデュークも生きている。
あの日、氷片となって砕け散ったレクソスとデュークはシャイニー・ホーネットとダークシー・ウイングを核にした水分身をイービル・ファンデーションで偽装したものだ。
本当はアクアバットだけは契約を継続するつもりだったけど、みんなと一緒が良いと希望したので、この計画の為に協力して貰い、完璧にやり遂げてくれた。
ただ、デュークには腑に落ちないことがあるらしい。
「魔法はもう使えないけどな。おかげで俺はお前の
レクソスとデュークは勇者と魔王の力そのものである魔力を失った。
マリオネット・ウンディーネで魔力構築回路を繋げていたから、二人の魔力は永久に凍結されたままだ。
それは術者である私が死んだとしても解除できない。
これで二人は生涯に渡って勇者と魔王という役割に縛られることはなくなった。
勇者候補とは勇者の遺伝子を受け継ぎ、それが色濃く発現した者を指すようなので、その遺伝子そのものを封じてしまえば良い筈だ。
レオンザート王子にも細工したから、しばらくは問題ないと信じている。
仮に勇者候補生が現れたとしても敵がいないのだから勇者という役目を与えられることはないだろう。
魔王側は何百年も生き続ける悪魔がデュークの影武者として君臨しているから、そっちも問題はないだろう。
つまり――
「安心して子作りできるってわけ」
前方から豪快に噴き出す汚い音が聞こえる。
彼はなにを想像したのだろう。
レクソスもデュークも事実上は家族がいない。
でも私には親バカの両親がいるから、葬儀は大々的に執り行われていると思っていたのだけど、そんなことはなかった。
どうやら、リーゼと"水圏の魔女"が何か吹き込んだのか、両親は私がどこかで生きていると信じているらしい。
まぁ、間違ってないから良いのだけれど。
落ち着いたら手紙でも書いてひょっこり顔を出そうかな。
その時はデュークも一緒に挨拶してくれるかな?
「……で、これからどうする?」
「そうねぇ。とりあえず、レクソスとエレクシアの結婚式に無断出席するでしょ。実家にも顔を出したいし、その後は一緒に旅しようよ」
「……あぁ」
随分と歯切れが悪いな。
もっとこう、男らしく決めて欲しいのだけれど。
「私のウェディングドレス姿とか興味ある?」
「……ぁ、あぁ」
「ふふん」
荷台から身を乗り出し、デュークの隣へ移動すると車のバランスが崩れて大きく揺れる。
咄嗟に抱き寄せられた私は瞳を閉じて、優しく触れた唇の暖かさを受け入れた。
「私って嘘つきだけど、約束は守る方でしょ? だから、デュークとの約束は死ぬまで守るよ」
「……約束ってなにかあったか?」
それはもっと後でもできることだから、二人の時間を満喫してからにしよう。
突如、ガタンッと馬車が揺れて、疾走感に包まれる。
馬の脚も宙に浮き、尋常ではない速度で走り始めた。
これは風属性魔法だ。
という事は――
「おっせーよ。どんだけ待たせんだよ!」
「あら、随分と野蛮な魔法を使うようになったのね。お陰で快適に早く到着したわ。ありがとう」
どうやら私達の無断出席の思惑はバレていたらしい。
小さなチャペルには花婿と花嫁とその友人だけがいた。
なんだ、もっと豪華な式かと思っていたのに。
「遅いぞ、デューク。あ、弟よ」
「黙れよ。なんでお前が兄なんだよ。どう見ても俺が兄だろ」
「結婚式は一ヶ月も前にとっくに終わってるのよ! どんだけ遅刻するのよ!」
「あ、あれ? そうでした? もう! デュークがゆっくり馬を歩かせるから!」
「そんな訳ないだろ。お前の情報が間違ってたんだ」
レクソスとエレクシアの幸せそうな顔に癒される。
シュナイズは口は悪いけど今でも仲間思いで、感謝を伝えると照れくさそうに笑う姿は相変わらずだった。
私の望んだトゥルーエンドとは全然違うけど、こういう形もありなのかもしれない。
当初の目的は私のエロい一枚絵を誰にも見せず、隠しボスにもならないことだったわけだし、この世界へ転生してからの私は奮闘したと思う。
この先、どうなるかは分からないけど。
「ん? なんだ?」
「ううん。……ねぇ、見れると思う?」
「は、え? なにが?」
デュークにだったら、いいかもね。
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