第34話 謀略の円舞曲
国王軍の撤退を見届けた私は魔王城へと足を踏み入れる。
六年ぶりに訪れた玉座の間は以前と何も変わっていなかった。
デュークの身体に刻まれた火傷や切り傷は完治したけど、落雷によるダメージだけは癒やせない。
私の治癒魔法を超える雷属性攻撃魔法を扱うレクソスにデュークは敵わなかったらしい。
ここまで力の差があるとは思ってもみなかった。
「もういい。お前は学園に戻れ」
「いいえ、私もここに残るわ。学園にはアクアバットが代わりに通ってくれるから大丈夫よ。ちゃんと卒業するわ」
デュークが無言で去って行く。
なにか機嫌を損ねるようなことを言ってしまっただろうか。
相変わらず、男の子の思考は分からない。
それから数日が経ち、デュークの闇魔法強化の為に訓練に付き合うと申し出たのだけど、彼は了承せずにずっと自室に引きこもっている。
こんな生活を続けるようじゃ、なんの為にここに残ったのか分からないじゃない。
漫然と日々を送っているとアクアバットからの定期連絡で学園内で小さな社交界が行われることを知った。
別に興味はないけど、レクソスが私と話したがっているらしい。
どうぞ、たくさんお話してあげて。と伝えたのだけど、どうやらアクアバットは私自ら出向けと言っているようだ。
主人をこき使うなんて、まったくとんでもない奴だ。
密かにウンディクラン寮に忍び込んでアクアバットと入れ替わった私は久々にリーゼに手伝って貰いながら社交界用のドレスに身を包み、夜を待つ。
会場入りして適当に挨拶回りをしつつ、ホールを抜けてテラスで待つレクソスの元へ向かった。
「やぁ、ウルティア。久しぶりだね」
「ん? なにを言っているのですか? 毎日、会っていますよ」
「今日は本物みたいだね。君の代わりを務めているのはアクアバットだろう? あの精霊王様は真面目に君の真似をしているから、ウルティアの本来の良さが損なわれているよ」
相変わらず油断ならない男だ。
いつでも逃げられるように足に魔力を込めておこう。
「君は今どこにいるんだ?」
「実家です」
「それは嘘だ。いいかい、ウルティア。君の実家は王宮魔導師達によって監視されている。次の曲が終わったらすぐに学園を去って実家へ急ぐんだ」
ダンスホールへと誘われ、レクソスにエスコートされて周囲と同じように踊り始める。
「……なにを言っているのかさっぱり分かりません」
「しらを切るつもりなのか。残念だけど、ボクは君の正体を知っているよ。君が"氷瀑の魔女"だ」
私を見下ろすレクソスの瞳に嘘偽りはない。
それは水の見聞魔法を使わずとも分かるほどに真っ直ぐな瞳だった。
「罠ですか。だとしたら、レクソスが囮役ということですね」
「違う。ボクは君の味方だ。本物のウルティアを呼び出したのはちゃんとお別れしたかったからなんだ」
「わがままですね。でも信用はできませんよ」
「そうか」
レクソスに手を引かれ、彼の腕の中に収まると同時に唇が柔らかいものに触れる。
一瞬なにが起こったのか分からなかった。
でも、目の前にあるレクソスの綺麗な顔が全てを物語っている。
「これで信じてくれるかな?」
「な、なにを……。レクソスにはエレクシアがいるのに――」
「今、エレクシアは関係ないよ。女王陛下と"水圏の魔女"が来ている筈だ。ボクが手伝うから君は逃げろ」
「どうして、私を助けてくれるの?」
「君が大切だからだよ」
「そう……ですか。では、お言葉に甘えて――」
次の瞬間、会場は真っ暗になり、生徒達の悲鳴が飛び交う。
明かりが灯るとダンスホールには私とレクソスだけが取り残され、これまで楽しんでいた生徒達はどこかへ消えていた。
周囲を王宮魔導師や魔導騎士に囲まれ、目の前には女王陛下と"水圏の魔女"がいる。
「ご苦労様です、レクソス。その手を離さないで下さいね」
「女王陛下、これはどういうことですか!? 他の生徒達は一体どこに!?」
「白々しい真似はおやめなさい。その女は魔王ですよ」
「な、なんのことですか、女王陛下!? 私には、なにがなんだか分かりません!」
レクソスに合わせて動揺する振りをしておこう。
これで凌げるとは思えないけど、少しでも隙が生まれればこちらのものだ。
「これを見なさい。"氷瀑の魔女"が国王軍の放った攻撃魔法を防御した時とウルティア・ナーヴウォールが"土帝の魔女"と戦っている時の録画映像です」
壁に投影されたのは私がアクティブガードナー・パラディオン・パラサイトを発動したときの映像と、過去にアクティブガードナー・ジェノサイドを発動したときの映像だった。
盗撮なんて良い趣味してるじゃない。
「間違いなく同じ水属性魔法です。そしてこの魔法を扱えるのはウルティア・ナーヴウォール、貴女だけです」
ここまで証拠を持ち出されるともう言い訳はできない。
霧の中に隠れてやり過ごそうとしていたけど、そう簡単にはいかないようだ。
「逃げられませんよ」
私を囲うように風が巻き上がり、霧が払われる。
退路がないのなら無理矢理にこじ開けるまでだ!
水属性攻撃魔法を繰り出そうとした瞬間、床が盛り上がり、私とレクソスの手が離れる。
名残惜しそうにしている左手を掴んだその人は私の肩を抱き寄せて不敵に笑った。
「コレは俺の所有物だ。俺の許可なく触れるな」
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