第15話 魔力の乱れは心の乱れ
いよいよ、魔王討伐のために各地に散った魔女に会いに行く旅が始まろうとしていた。
その前にどうしても手に入れたい物があった私は一人で町へ繰り出し、魔法具を扱う店をしらみつぶしに巡る。
ようやく見つけたそれはゲームクリア後に手に入れることができる超レアアイテムで、その名も
これからの旅で私はパーティーを抜け出し、魔王の手先として幾度となく登場することになるのだけど、使い魔がいれば少しは楽ができるだろう。
寮に戻り、深夜までワクワクして過ごした私は
深夜に水属性の魔力を流すことで召喚される使い魔は
「なにこの子、可愛い!」
使い魔には序列が存在するらしいけど、この子が序列何位に相当するのか知らないし興味もない。
とにかく、私の代わりを務められればそれでいい。
リーゼも気に入ってくれたようで何よりだ。
放し飼いにしたコウモリに"アクアバット"と名付けると部屋中を楽しそうに飛び回り始めた。
「リーゼ、今日までお世話してくれてありがとう。しばらくはお別れね」
「道中お気をつけ下さい、お嬢様。ご無事を祈っております」
暇を与えた彼女がウンディクラン寮から出て行くと寂しさが一気に押し寄せてきた。
魔女帽子と魔法使いのマントに姿を変えたアクアバットを身につけて鏡の前に立つと、ゲーム内に登場するウルティア・ナーヴウォールその人が映っていた。
これが私の本当の姿であり、これからも隠し続けなければいけない姿だ。
「よし、行こう」
アクアバットを懐に隠し、イービル・ファンデーションで作り上げた勇者候補パーティーの一角を担うウルティア・ナーヴウォールとしての顔を貼り付けて、ノームレス寮へ向かう。
「では、デューク。私はしばらくの間、学園を離れるけど、魔王になれそうになったら最果ての地に来てね。それまでは魔王軍筆頭として責務を果たしておくから」
我ながら意味の分からないことを言っているけど、こう伝えるしかないのだから仕方ない。
「いつから魔王軍筆頭になった。お前は平和に暮らすのが夢なのだろう? 俺の夢に付き合わせてしまうな」
「ううん。デュークの夢を叶えて、私の夢も叶えるから大丈夫。魔王になっても我が家に来てくれる?」
イービル・ファンデーションで作った彼の顔が赤みを帯びていく。
私の魔法も精度が向上しているみたいで嬉しいな。
「約束しよう」
それにしても、告白っぽいことを言ってしまった。
全くそんな話では無いのに照れくさくなって、会話を切り上げるように背を向けて歩き出す。
* * *
多くの優秀な魔法使いや魔女を輩出してきた王立グランチャリオ魔法学園だけど、学生に魔王討伐を依頼するのは異例なことのようで盛大な壮行会が催された。
私はパレードの一番後ろで俯く。
今日も安定してむくませた身体を維持しているのだから、この美男美女揃いのパーティーには不釣り合いだろう。
前方では主人公、メインヒロイン、イケメンモブキャラが笑顔を振りまきながら手を振っている。
そんなキラキラしたことはできないし、するつもりもない。
「ウルティア、顔をあげて。君はもっと自信を持った方がいい。このパーティーの要は君だよ」
レクソスは私の手を取り、エレクシアとシュナイズの隣まで連れ出した。
この溢れるキラキラの中にいれば自分が輝いているのだと錯覚してしまいそうになる。
私はそれが怖い――
「そのむくみを取って」
「……えっ?」
「その有り余った水分をブロンドヘアに移動させるんだ。水と友達の君なら造作も無いことだろう?」
この主人公は私の身体偽装魔法を看破しておきながら、見逃していたというのか。
ここで断るのは得策ではない。私は内部の水分を操作して本来の姿に近づける。
金髪は潤いを取り戻し、手櫛は詰まることなくすり抜ける。
全身のむくみがなくなり、服を纏っていても身体のラインがはっきりと見えている筈だ。
「自分を偽る必要なんてないんだ。綺麗だよ」
なんでこんなにも簡単に人を褒めることができるのだろうか。
いや、違うな。この人は主人公で勇者候補だけど、一人の男の子だ。
その証拠に耳まで真っ赤になっている。
そんなに恥ずかしいのなら私なんかに歯の浮くような言葉を伝えず、エレクシアの為に取っておけばいいのに。
「ありがとうございます」
私は彼の頬の熱を冷ますだけの為に晴天の空に向かってヒーリング・シャワーを放つ。
この国全土に降り注いだ癒しの雨は私達が国を出るまで止むことはなかったらしい。それほどまでに私の魔力コントロールは不安定だったのだろう。
私の心を乱す二人の男の子は私にとって一体何なのかしら。
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