第4話 モブキャラ達に絡まれる

 入学式を終え、割り振られた寮へ荷物の搬入を終えると歓迎パーティーなるものが開催されるようだったので参加しておいた。

 特に知り合いのいない私は一番隅っこの席に座り、モソモソと料理を食べる。

 ご飯は美味しい。これなら五年間の食事に困ることはないだろう。

 空腹を満たし、情報収集も終わったので引き上げようかと席を立つ。

 私は常に水の見聞魔法を使用している為、多少離れていても噂話は全部聞こえる。良くも悪くも便利な魔法だ。


 唯一の出入り口である巨大な扉へ向かっていると背後から複数の視線を感じて足を止める。

 ゆっくり振り向くと嫌悪感の滲んだ表情の男性が立っていた。

 そんなに不快なら話しかけなければいいのに。


「なぜ君のような醜い女がウンディクラン寮なのだ。恥を知れ!」


 青い髪が特徴的な雰囲気イケメンは私と同じウンディクラン寮となったウロという名の少年で、ゲーム内では回復役としてパーティーメンバーに加えることが可能なキャラクターである。

 ちなみに私はゲームする時だけはイケイケドンドン系女子なので回復役をパーティーには入れない。

 そんなものは薬に頼れば良いと常々思っている。

 それに後々に個体値の高い水属性の魔女が仲間になるので、彼は序盤しか活躍できない小物だ。


「貴様、なぜ鼻を鳴らした! 僕を馬鹿にしているのか!?」


 おっと失礼。うっかりね。と言える訳もないので素直に謝罪しておく。


「少々、鼻の具合が悪いようで大変失礼いたしました。ご容赦ください」

 

 入学早々から問題を起こしたくないのはお互い様だろ。という視線に気付いたのかは定かではないが彼は舌打ちをして黙る。

 扉に手を伸ばすと彼の背後からまたしても一人の少年が突っかかってきた。


「ただでさえクソ雑魚水属性魔法使いだってのに、その容姿じゃ嫁の貰い手も見つからねぇだろうな」


 これが本当の姿だと思っているのか?

 まだ精度が低いと感じていたが生徒相手ならこれでも十分なのか。おかげで一つ学んだ、ありがとう。


「お前、良い度胸してるじゃねぇか。オレに向かって鼻を鳴らした奴はお前が初めてだぜ」


 いけない、いけない。

 幼少期からの癖を抜くことは非常に難しい。これも全ては親バカな父が悪い。

「おとぎ話の悪い魔女みたいでカッコカワイイ」と言われたものだから調子に乗った結果がこれだ。

 またしても謝罪する羽目になってしまったじゃないか。


「学外授業が楽しみだな」


 そう吐き捨てて踵を返した彼はシルフィード寮に配属された風属性風魔法使いのシュナイズだ、攻撃力と素早さを売りにしているけど、同じく序盤のみしか使えないキャラクターである。


「貴様が"奇跡の貴族"ナーヴウォール伯爵家の娘か」


 次から次へと煩いな。

 扉のドアノブに手を伸ばしたまま振り抜くと、そこには王子様が立っていた。

 彼を見上げる私の瞳はさぞ輝いていることだろう。……なんてことはない。


 こちらの王子様風の彼は現在のボルトグランデ寮の主で勇者の素質を持ち、雷属性魔法を扱う者である。名前はレオンザート、私達よりも二つ上の学年の筈だが、なぜここにいるのだろう。


「ほぅ。ウンディクランには勿体ない魔力だ。その見た目でなければ側に置いてやってもよいのだがな」


 この王子様風の彼はストーリーに関係のないモブキャラの筈なのに、なんでこんなに態度が大きいのだろう。

 しかも、人を魅了する魔法を発動している。

 そういった類いの魔法は問答無用でレジストするようにしているから私には効かないけど、他の女生徒達は彼にメロメロだろう。


「お初にお目にかかります。ウルティア・ナーヴウォールと申します」

「その名、覚えておこう。身なりを整えればきっと化けるぞ。精進するがよい」


 無礼ことを言う同期や、とんでもなく上から目線な先輩の対応に疲れ切った私は気配を消してパーティー会場を抜け出した。

 ウンディクラン寮の中は各々の個室が用意されている。

 自室に入ると部屋中を満たす紅茶の香りに癒やされた。さすがは専属のメイドさんである。


「随分とお早いご帰宅ですね。一人ぼっちに耐えられなくなり、逃げ帰って来られたのでしょうか」

「否定しないわ。そんなことより今の私ってどう?」

「恐れながら、類い希なブスと存じます」


 少しは恐れろ?

 いや、彼女はこれで良い。私にとってメイドさんというよりも姉に近い存在であるリーゼは魔法使いではなく、ただの人間だ。

 彼女は私の魔法を見ても驚くどころか、もっと面白いものを見せろと要求してくる。私がド派手な魔法ばかり開発、習得したのはリーゼの影響が大きいと言えるだろう。


「メイク魔法を上手く扱えるようになってよかったわ」

「ここは自室ですのでメイクを落として下さい。そのままの姿で会話していると私まで太りそうなので」


 私の全身に行き渡る不要な水分が頭頂部を目指して移動を開始する。

 ピチピチだった制服にはゆとりが生まれ、ぴったりのサイズになると全身に含まれていた水分は元気のないブロンドヘアに潤いを与えた。

 首筋に爪を食い込ませ、皮膚を摘まんでひと思いに引き剥がすと顔面偽装パックは多数の水滴となり絨毯を濡らした。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 先程とは打って変わって丁寧な言葉遣いとお辞儀で挨拶するリーゼからティーカップを受け取る。

 口の中に果実味豊かな風味が広がり、やがて消える。いつもより高級な茶葉を使ったようだ。


「ふふん。相変わらずの変わり様ね」

「失礼ながらお嬢様。その鼻を鳴らす癖には注意した方が宜しいかと存じます。少々、鼻につきます」

「そうよね。さっきも殿方に不快な思いをさせたみたいよ。口は災いの元と言うし、気をつけないといけないわね」

「それから先程のお姿も。本当に変装する必要があるのでしょうか」


 リーゼの言いたいことは分かるけど、常に最悪のケースを想定して行動する方が身の危険は少ないと私は考えている。

 本来の姿で主人公やメインヒロインの前に敵として立ち塞がり、むくんだ仮の姿で学園生活を送るつもりだ。

 この異世界を不幸にならずに生き抜く為には仕方のない選択だと覚悟は決まっている。


 実家のお父様、お母様。お二人のようにこの学園生活で結婚相手を見つけることは難しいと思いますが、なんとかやってみますね。

 と、盛大なフラグを立てておこう。……なんてね。

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