第79話 Whining Cheeper Ⅰ
「待って!待って、置いて行かないで」 / ——誰だろう?誰だか知らない子供が走っている。
「待ってよ……待ってよぅ、アタシを置いて行かないでぇ」 / ——あぁ、アタシだ。アタシが走っているんだ。
「ねぇ、お父さん!ねぇ、お兄ちゃん……何で?何で、アタシを置いて行っちゃうの?」 / ——何だろう、この感じ?アタシ、何で追い掛けているんだっけ?
「置いて……かれちゃった。アタシ、1人になっちゃった。みんな、みんなぁ、どこに行ったの?」 / ——そうだった、アタシは1人ぼっちになっちゃったんだ。みんな、アタシの前からいなくなっちゃったんだ。
「お父さん、お兄ちゃん。1人にしないって約束したのに」 / ——アタシはこれからどうしたんだっけな?よく思い出せないや。
「お母さん……」
少女は目が覚めた。いつになく寝覚めが良いとは言えなかった。夢見が悪かったからだろうか?
でも見ていた夢の内容すら、もう少女は覚えていなかった。
「涙?!アタシ、泣いてたの?最近、情緒不安定なのかしら?ダメね、もっと気を強く保たないと」
「でも……アタシだって本当は弱い女の子だもん……」
少女は自分の頬を伝う涙に驚いていた。そして自分自身の事について「全て分かっている」という自信が、揺らいで行くのをベッドの上でただ1人、弱音を漏らしながら
キリクが神奈川国から
少女はマムに、キリクが請け負った
だが、マムからの解答は「その
だからこそ少女は1人、キリクの無事を祈る事しか出来無かった。
「季節外れの台風が進路を西南西に向けてこちらに来ています」
そんなニュースが
今は1月、季節は冬。海水温は冷たく北半球で台風が発生する要因はどこにも無い。更にはその北半球に位置するこの国に、惑星の持つ自転と気流の流れすら無視して、台風が中部太平洋から列島に近付いて来ているという事は、真実味が無い以上に現実味が全く無い事象でしかなかった。
有史以来、観測された事がないハズのそんな事象であり、台風という現象に於いては、あり得ないとしか言いようがなかった。
だが、更に1週間が経ち2月になろうとしているこの寒い時期に、そのニュースは現実となって列島に
「警告!!太平洋上から、列島に向かって、威力と速度を上げながら超巨大な台風が接近しています」
「今後、超大型の台風は進路を
「瞬間最大風速は……」
ニュースはそれ以降、その話題で持ちきりになっていった。
国が幾つも成立し
第2次世界大戦以降に普及しつつあったTVネットワークと、既存のラジオ放送は惑星融合の際にインフラとして成立しなくなっていたからだ。
月に設置されている統合演算装置・ミュステリオンは、デバイスの管理・統括を行っているだけではなく、惑星に於ける様々な事象を観測し、蓄積するデータベースとしての機能も有している。
ただし、通常時はその観測データにアクセス出来る権限は限られている為、許可されなければ覗く事も出来ないブラックボックスだ。
ただし
拠ってそれらの場合は、対象となる国家に対して
そして、戦争などの有事が起きた際には、そのニュースは全世界に向けて一斉に配信される。
人々はそういったニュースが配信されるとデバイス以外の「端末」を用いても情報の確認が出来るようになる。デバイス以外の端末とは主に廉価版デバイスや、PCと呼ばれるツールを指している。
それらに対してもミュステリオンの持つ、データベースに対するアクセス権限が一時的に解放されるのである。
そして、そのニュースは見るだけの一方通行型では無く、自身から情報をネットワーク上に発信する事も可能な
魔導工学に拠って発展した世界は、そうやって進化を遂げていたのである。
少女はキリクが
そして「何も手を付けたくない」と自室で塞ぎ込んでいたのだが、ある日を境にまるで
周りの者から見たら少女の姿は、
少女はそんな忙しさの中で、本当にふとした
誰から聞いたかは忘れてしまったが、「季節外れの台風」という言葉が、妙に少女の心に引っ掛かったのだった。
「季節外れの台風?そういえば、キリクが超大型のハリケーンがどうとか言ってたわね……」
「屋敷に戻ったら少しだけ調べてみようかしら」
少女は心に引っ掛かった「季節外れの台風」から、キリクの話しを思い出していた。
そして自室に戻ると、ミュステリオンのニュースネットワークから「季節外れの台風」についての情報を集める事にしたのだった。
「こ、これは!……う、嘘……でしょ?」
「そ、そんなッ……あぁ、ダメ!こうしちゃいられない」
情報を集めていく少女の瞳に、1枚の画像が目に止まっていた。
少女は折れそうになる心を必死に奮わせると立ち上がり、装備を整え急いで公安に向かって行くのだった。
少女がいなくなった部屋の
それは
外はもうだいぶ薄暗い。冬至が過ぎてから1ヶ月そこそこじゃ、日が延びた感覚はまったくと言っていい程無い。
拠って外が段々と暗くなっていく反面、主がいなくなった部屋の中で
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