第72話 Unique Deceiver Ⅱ

 少女が憶えた「違和感」は、デバイスの光点だ。ガルムファミリアと少女の探索の結果、現在戦闘が行われている最上階を除き、それ以外の探索は既に終えていた。


 だが、生き残りはもう発見出来無かった。ここまでの所に見落としがあるハズもない。少女の目は誤魔化せても、ガルムファミリアの鼻は誤魔化せないからだ。

 そしてその結果、という事実を、究明した事に繋がったのである。



 性悪妖精鬼種アンシーリーコート達は能力スキルに拠って、「不可視化インビジブル」状態にあった。いつからなのかは分からないが、少女ののである。



 性悪妖精鬼種アンシーリーコートは上位亜種になる。しかし、そこに至る進化の派生は幾つかある。

 小鬼種ゴブリンから派生した性悪妖精小鬼種アンシーリーコート

 鬼種オーガから派生した性悪妖精鬼種アンシーリーコート

 幽鬼種レヴナントから派生した性悪妖精幽鬼種アンシーリーコート

 悪鬼種イービルアイから派生した性悪妖精悪鬼種アンシーリーコート


 生態系上に於ける広義の鬼種に含まれる種全てから、上位亜種として進化する事が出来るのが確認されている。そして、それらのはそれぞれの種の能力スキルを受け継いでいるばかりでなく、特殊な能力スキルを持つモノもいるのだった。


 そして今回、少女の背後に取り憑いていたのは、小鬼種ゴブリン鬼種オーガ幽鬼種レヴナント達であり、更に付け加えれば「不可視化インビジブル」の能力スキルを持っているのは、幽鬼種レヴナントである。



小鬼種ゴブリン鬼種オーガ幽鬼種レヴナント達が小鬼種ゴブリン固有個体ユニークに従っているとは、どういった風の吹き回しかしら?」


「我々ニ対話ヲ求メルカ?ヒト種ノ娘ヨ」


「対話を求めたら教えてくれるのかしら?」

「それじゃ試しに聞かせてもらうけど、アナタ達の黒幕は、あのフードの男かしら?」


「アノ方ハ、我ラガ神ダ。我ラノ主ハ、アノ方ニヨリ、偉大ナル力ヲ授カッタ。ソレ故ニ、邪魔ヲスル者ハ排除スル」


「えっ?それじゃ、ここにいる固有個体ユニークは作られた固有個体ユニークだって言うの?」


「答エル義理ハ無イ」


 少女は少しでも情報を聞き出すべく会話という手段を取ったが、謎は深まるばかりだった。そして性悪妖精鬼種アンシーリーコートから紡がれた内容に、これ以上の会話は無理だと悟った。



「そう、それならば話しは終わりねッ!デバイスオープン、精霊石ウィル・オ・ウィスプ、フルバースト」


ぱぱぱぱッ

しゅいーーーーん

しゅばんッ


「ぐぎゃあぁぁあああぁぁぁあぁ」


 少女は痺れが回って来ている身体で、闘う事は分が悪いと重々承知していた。性悪妖精鬼種アンシーリーコートは決して弱い相手ではない。

 3匹相手なら全力で闘わなければ、痛い目を見るのは自分だと分かっている。


 だから不意を打つ為に、持っていた4つ全ての光の精霊石を解放したのだった。

 達は光の精霊石から放たれたエネルギーをまともに受けていた。そして、その光に因って焼かれ、見るも無残ながらに成り果てていったのである。


 それ程までのエネルギーを持つ光の爆発に対して、少女は「ただで済むハズがない」——なんて事はなかった。



 精霊石が引き起こす現象の力は周囲にまで影響を及ぼす。拠って扱い方を間違えれば、使用者本人も巻き込まれるのは当たり前の事だ。

 一方で光と闇の精霊石は特殊な精霊石とも言われている。何故ならば、その場にいる者の効果に差異が生じるからである。



 少女は光の属性をその身に有している。しかし、達は光の属性を有していない。

 その結果、達だけが光に焼かれたのだ。



 今回、少女が使ったのが下位の精霊石「ウィル・オ・ウィスプ」だったからこそ、少女は無傷で済んだ。

 逆に上位の精霊石をあのように贅沢に使えば、少女とて無事では済まないのは補足しておく。まぁ、上位の光と闇の精霊石は国宝級なので、そんな使い方は本当に贅沢だし、お目に掛かるコトすら滅多にないのだが……。



達は倒せたけど、流石にウィスプ4つの出費はデカかったわ。はぁ……」

「ってか、身体の痺れが取れてないわね。能力スキルに因るものかと思ってたけど、物理的な毒を使ってたのかしら?なんてイヤな敵……ともあれ、先になんとかしないと上にはいけないわ」

「デバイスオープン、万能薬」



 万能薬は錬金術士アルケミスト系のジョブか銃士系専門職化学士ケミストが錬成出来る品で状態異常の回復効果がある。

 当然の事ながら同様の魔術もあるが、少女はそっち系の魔術は不得手なので万能薬を仕入れており、必ずいくつかデバイスにストックしている。

 ローポーションと同じでハンターには必要不可欠なアイテムと言えるだろう。



どごぉぉぉん


「クリスは随分と派手にやってるみたいね?これで後は上にいるヤツらだけだから、様子見がてらアタシも行ってみますかッ!」

固有個体ユニークがどんなツラしてるのか拝んでおきたいしねッ!」


 少女は最上階での爆発音を聞き付けるときびすを返して、来た道を戻っていった。

 まだ見ぬ敵に対する好奇心の裏には、ただならぬ嫌な予感があったがそこには敢えて気付かないフリをしていたのだった。

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