バズってるリップの欠点

ポン吉

バズリップの欠点

「バズリップを手に入れた。これで私も”持ってる”側だ!」


 彼女はシンプルな黒のパッケージを掲げ、自慢げに胸を張った。バズリップとは、例の落ちないと噂のアレであろうか。バズってるリップ、ということだろう。


「バズリップって、ずっと欲しいって言ってたやつ?」

「そう! 言わずと知れた名品。全国民の必需品と言っても過言ではないだろう!」

「さっきから、なんでそんな芝居がかってんの?」

「テンション上がってるの! 見て、可愛い?」

「可愛いよ」


 オレンジみがあるリップは彼女によく似合っていた。だから素直に褒めたら、自分から振ったくせに髪先をいじって照れている。僕はもう一度「可愛い」と言った。


「そ、そうでしょうとも。充分わかったので、もう結構です」

「うん、可愛いね」

「もういいってば!」


 嬉しそうにしたり照れたり、はたまた怒って頬を膨らませたり。コロコロ変わる表情は見ていて楽しい。キスしたいな、と思ったから、顔を近づけると、むぎゅっと両手で塞がれてしまった。


「…………」

「ま、まだお話は終わってないの!」

「ふうん。じゃあ続きは?」

「急に乗り気!」


 今度は僕が頬を膨らませる番だ。しかし彼女はなぜか、いそいそとリップを重ねて塗った。


「何してるの?」

「見ててね」


 彼女は自分の手の甲に軽く唇を落とし、「ね、ついてないでしょ」と見せてくる。


「……煽られてんのかな」

「ち、違うよ! ええっと、こんな風に完璧なこのリップですが、ひとつだけ欠点があります」

「欠点? それって───」


 それってどんな、と言おうとしたが、他でもない彼女に遮られてしまった。は、と唇が離れて、彼女は上目遣いに見つめてくる。


「キスしてもね、色が移ってくれないの」


 いたずらっ子のような小悪魔な笑みで、彼女は揶揄うように目を細めた。

 なるほど確かに、彼女にとっては欠点かもしれない。


「でも、僕にとっては好都合かな」

「え?」

「何回してもバレない、ってことだろ」


 目を見開いた彼女の返事を待たず、今度こそ影が重なった。

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バズってるリップの欠点 ポン吉 @Ponkichy

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