死んだ聖女と幼馴染の物語
三又
第1話
私、レインが砦の見張り台に立つと朝焼けの中湿った風が吹き、長い銀髪を吹き流す。
聖女の白い衣装が風になびき、スリットの隙間から足の付け根の太股まで見えているがこの状況ではみる人などいるはずもない。
どこかが焼け落ちたのか焦げ臭い匂いを鼻に感じる。
見張り台から見える景色は絶望だった。
魔物の氾濫が始まったのだ。
川に面した高台にある砦は川直前まで張り出した森がよく見え、そこから魔物の軍勢が次々とあふれ出てくる。
もはや砦の陥落は時間の問題だ。城壁へ籠って戦ってももはや意味はない。魔物の波は砦を孤立させ、国土の奥深くまで魔物の侵入をゆるすだろう。
周辺の村々はほぼ全滅し王都まで魔物が闊歩し、阿鼻叫喚の地獄が出現する。それはもはや確定した未来だ。
私は空虚な視線を地上へ向けていた。
続々と川を渡り王国の領土へ入ってくる魔物たち、一部は砦の城壁に取り付いている。このままで行けば故郷の村も襲われるのは間違いなく、どれほど嘆き悲しんでももはやどうすることもできない。
なにが聖女だ、なにが癒しの力だ、そんなものがあったとてなにも変わりはしない。いままで全力で村のため国のため人のために働いてきたがすべて無意味だった。
しょせん一人の力ではどうすることもできず、何一つかわらなかった。
であればこそ、自由に生きるべきではなかったか。
やりたいようにいきやりたいように死ぬべきだったのではないか。じくじくとした後悔の念が浮きあがってくる。
この砦がいつまでもつかわからないがそれまでに脱出しなければ魔物の餌である。とはいえ脱出できたとしてもどこへゆくのか、魔物がうようよいる中、王都まで落ち延びるのは現実的ではない。
だから私はここで脱出していった人たちの幸運をただ祈るだけである。
しかし、嗚呼あの人は無事脱出できただろうか? 故郷の村にたどり着けただろうか?
それだけが私の心残りだ…
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