第2話 この世であなたの愛を手にいれるもの

「神籬さん。お言葉を返すようですが、ミステリー小説においてタイムマシンなどというものを登場させるのは、タブー中のタブーです」


「ああ、すまんな。ちょっとした雑談だ」

会話まで几帳面なやつだな。


 ニカルはすでに、kanon_osという名のオペレーティングステムを、自分の手で完成済みである。他にも、ハードすら作っちまうんだから、天才という名では足らない。


 ハードが普及する切っ掛けになるのは、魅力的なソフトの存在によるところが大きい。ファイナルファンタジー7は、初代プレイステーションの爆発的な売れ行きに大きく貢献した。


 PCでも家電でもなんでもいいんだが、魅惑的な商品を生み出し、そいつを動かすにはkanon_osが必要ですよ、との手順を踏めばいい。


「わたしの母が失踪したのは、kanon_osを世に出そうとした時からなんですよね」

ニカルの母親は、自分が先行して開発していたkanon_osを、娘に託した。


「きっと、また逢えるさ」

「母の置き手紙に書いてあったんです。北伊勢市の神籬さんという探偵のところに行きなさい、と」

プロフェッサー科納の伝達手段が紙なのは、電子メールの脆弱性を重々承知しているからだろう。


 kanonブランドの電化製品は、すでに販売ルートに乗っている。あまり知られていないことだが。


「そうかそうか。どうりで似てるわけだ」

「母を知ってるんですか?」

ま、こうなっちまうよな。


「お前の母親は超有名人だからな。ここに行きなさいって話は初耳だったが」

ニカルは笑みを浮かべ、深く俺を問い詰める真似はしなかった。


「このサービスを受けるなら、この利用規約に同意してください云々の手続きを毎日のようにさせられますが、全文ちゃんと読んでいたら、とても同意する気にはなれないはずですよ」

ニカルは本線に話を戻した。


「そう。その辺は全然お手軽じゃないよな」

昔ながらのやり方で進めると、かならず時代遅れと指を差す輩が現れる。


「はい、終わりました」

喋りながらも器用なやつだ。



《次のニュースです。全国のプロミネンス感染者は、ついにゼロ人となりました。さわやかな夏の到来とともに、街には人々の活気があふれ・・・》

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