ロリ教師は美人可愛い02

 

 相変わらず閑散としている屋上に到着すると、やっと俺は安西先生の手から解放された。


「いい屋上ですよね。うちの高校は購買の外にオープンテラスができたせいで屋上に来る生徒が減ったと聞いていましたが……やはり何もない屋上の方が私は好きです」


 安西先生は気持ちよさそうに思いっきり伸びをしながら、屋上の金網から街を見渡していた。


 屋上まで先生と手を繋いでいたせいで、周りからの視線が痛かった。


 また裏チャットに書かれないか不安だ。

 俺を侮辱するのは構わないが。

 ……いや、前言撤回。やっぱロリコン呼ばわりだけはされたくねぇんだよなー。

 不思議なもんでさ、先生と手を繋いでいてもまったくドキドキしないんだよ。


「佐野くんどうしました?」


 安西先生は首を傾げる。

 先生はごまんといるただの可愛い系ロリとは違う。

 顔も丸っこくなくシャープだし、顔つきも日本人らしくない、どちらかと言うと西洋っぽい顔つきで鼻高くまつ毛が長い。ついでに髪もさらっさらで普通に美人なんだよ。

 だが、ロリキャラなのに無駄に美人だからマスコットになりきれてない感はある。


「先生はもっと可愛さの方に努力値振った方がいいっすよ。髪も伸ばしてツインテにしたらどうっすか」

「急に何を言い出すかと思ったら……。これだから問題児は」

「そういうところですよ。そこは『もー! こーたくんうるさいー! プンスカ!』って言わないと」

「単純に気持ち悪いです。私は教師であり大人なんですからそんな痛々しいセリフは吐きませんっ」

「あーあ、そんなだから生徒はおろか、同じ教師にも友達いないんじゃないんすか?」

「え……なんで知ってるんです?」

「本当の大人なら媚びるのも必要だと思うなぁ。意地になってる安西先生はむしろ子供っぽいし」

「なっ! ならやってやりますよ!」


 安西先生は子供みたいにムキになる。


「やぁやぁ安西先生」


 ちょうどそのタイミングで、俺たちの後から校長が屋上に顔を出した。


「こ、校長先生! お疲れ様です!」

「安西先生の方こそ、ちゃんと顧問の仕事をしているようですなぁ」


 校長はあごに蓄えたその白髭を撫でながら話す。


「それにしても安西先生はちょっと痩せ気味ではないかね。もっと食べんとなぁー。あ、これは今だとセクハラとやらになってしまうのかなぁ。あははっ」


 よし、このタイミングだ。

 俺は「先生、今ですよ」と耳打ちする。

 安西先生は強く頷いた。


「もー! 校長先生うるさいー! プンスカ!」


 あー馬鹿だこの人。

 なんで俺のキモ構文をコピペしたんだよ。


「あ、安西先生……後で校長室に来なさい」


 校長が怒り気味で屋上から出て行った。


 顔面蒼白の安西先生が俺の隣で立ち尽くしていた。


「安西先生は気が触れてるんですか?」

「君には1番言われたくない!」


 安西先生は大きなため息をこぼして頭を抱えた。


「やっぱり問題児の世話なんか引き受けなきゃ良かった」

「問題児の前でわざわざ言うなんて失礼ですねぇ」

「うるさい! 今私ははらわたがよじれるくらいにイラついてんです!」


 安西先生が俺に掴みかかってくる。

 身長が足りなくて俺の腹部のシャツを頑張って引っ張ってる。


「もー! もー!」

「そんな怒んないでくださいよ。ストレス溜まってんならハグでもします?」


 俺は冗談でそう言った……のだが。


「する」

「はぁ?」


「落ち着くまでするから、早く抱きなさい!」


 先生はマジな顔で手を伸ばした。

 もうヤケクソなのかこの人。

 俺はそれに応じるように少し屈み、身を寄せる。


「先生と生徒がこんなことしてたら、普通はラブストーリーが始まると思うんですがね」

「……私、佐野くんが嫌いです」

「嫌いなのにハグはするんすね」

「あなたは嫌いでもハグに罪はありません。ハグは不思議と懐かしさがあって、落ち着くんです」

「懐かしい?」

「私、イギリス人のクォーターなので、昔おじいちゃんに会う度にこうやって抱きしめられたんです」

「へぇ」


 顔的になんとなく分かっていたけど、クォーターだったのか。

 先生は徐々に強く抱いてくる。

 俺を、絶対に離さないように。


「……フリーハグは、あなたみたいな邪念のある人がやらなければいい活動だと私は思います。お互いに身体を許せるくらい平和なんだって分かるし」

「さっきから俺、酷い言われようだなぁ」

「今後は部長の桔川さんがやるのはどうでしょう?」

「あいつはπがデカすぎて無理っすよ」

「へぇ……」

「どうしました?」

「巨乳は敵なので」


 こりゃ、ゆなが来たら大変なことになりそうだな。

 その時、屋上のドアがゆっくり開く。

 噂をしたらなんとやら。ゆのが身体を震わせながら屋上にやってきた。


「お待たせー孔太くん。さっそくフリーハグで抱いてるみたいだけど……だ、れ?」


 ゆのが安西先生だと認識した瞬間、屋上の空気が一気に重くなった。


「な、なんで、先生と孔太くんが、こんな熱い抱擁を交わしてるの……」


 し、しまった……ゆのはロリキャラを毛嫌いしてるんだった。(新事実)


「お先に失礼してます。桔川さん」


 巨乳嫌いの安西先生とロリ嫌いのゆの。


 しゅ、修羅場の、予感。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る