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とにかく、問題は『黒獣の牙』のことだ。彼らはトップを崩せばいとも容易く崩壊する。だがいかんせん数が多く、何度崩れても残党を狩りきれないうちにまた人を集め、次のトップを立て、新たな『黒獣の牙』が生まれる。そういう面倒な組織だった筈だ。
そうでなければ、こうも目障りな組織だ。早々に大総統府側に潰されていることだろう。
それならば、分からないのは『暁の使徒』からの依頼も然りということになる。『暁の使徒』はチンピラの集まりのような『黒獣の牙』とは違い、個々が確かな実力を持った強固な集団組織。『黒獣の牙』の特性も分かっているだろうに、何故リーダーだけを殺せと依頼してきたのか。
例えば、『黒獣の牙』はリーダーを殺せばしばらくは表立って活動出来ない。その間に世界大総統を始末しようという考えも無くはないだろうが。
組織同士のどうこうはよく分からない。面倒に巻き込まれるのはごめんだ。
考えるのが面倒になり、アイスは後始末をすることにした。アルクの髪を掴み、剣を薙いで首を斬り離す。滴り落ちる血でその場に花の絵を描き、首を放った。
「はぁ……残念だわ。また見られなかった」
ひわが扱うという、『魔法』とやらを。彼は今日、暗器を使っていた。ごく普通の戦い方だったのだ。それが残念でならない。
チラリと視線を向けると、当のひわはビスクドールのような端正な顔を歪め、げっ、と低い声を漏らした。何かを察したらしい。
手元でリンと鈴を鳴らし、始めに外したネックレスを拾う。首の後ろで繋ぎ直すと、それはいつものようにまた胸元でキラリと光った。
身体は、どうもない。以前の不調は『
今日もまた、『羊』たちに攻撃される気配は無い。それどころか彼らは、戦いにおいてアイスをフォローしろとまで言われていた。どういうことなのか、全く理解が出来ない。
「……」
今度は桂十郎に目を向ける。彼もまた、よく分からない人物の一人だ。
認識すればよく見かける。テレビでも政治関連では度々出てくるくらいには忙しい筈なのに、夕方以降よく遭遇し、深入りはされないながらも絡まれる。実は暇……なんてことも、以前あのホテルで見た書類の山を考えると無い話だろう。
目が合ったのに気付いたのか、桂十郎が笑って手を振った。
「今日は元気そうだな」
「アナタは相変わらずヘラヘラと緊張感が無いわね」
本当に、テレビ越しに見るあの世界大総統と同一人物なのかと、いっそ疑わしい。
だけど、
「……息抜きは出来てるみたいね」
果たして息抜きと言うのかサボりと言うべきなのか、そういった大人の事情は知らないが。
とにかく、無理をしていないのならそれで良い。世界に必要な人物だと言われる彼を、まだ失うわけにはいかないだろうから。
「心配してくれんのか。そういや前に会った時のことも、エミルに話してたんだな」
「馬鹿も休み休み言いなさい。あの子とは、その時その時あったることを共有してるだけよ」
「ハハ、そうか」
戦いの中に身を置いている者として、強い者と対峙出来るのは楽しい。強ければ強いほど良い。強い者の戦い振りを見るのが好きだ。
弱い者はつまらない。興味が持てない。
それなのに、戦力としては弱い筈の桂十郎に興味が尽きないのは何故だろうか。弱い者への興味と言うなら確かに悠仁の前例はあるが、それにしたって。
「…………不快ね」
ぽつりと呟きを落とし、
その後すぐにその場を離れたアイスは気付かなかった。今の会話を聞いていたひわが桂十郎に対し、「何も知らないのか」という視線を向けていたことを。
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