道端の五百円玉

えのき

1

 寒々とした空に、肉まんから出た白いモヤが浮かぶ。部活帰りの肉まん、これぞ至高。


 僕が150円の幸せを噛み締めていると、少し前の街灯に照らされる一枚の五百円玉が落ちている。


「さて、どうするか……」


 拾うか、交番に届けるか、放っておくか、この選択において一番困るのが五百円玉だ。


 おそらく百円玉ならば、僕はなんの躊躇もなく拾うだろう(というか拾ったことある)。千円札なら、迷わずに交番に直行する。


 おわかりいただけただろうか? つまるところ、五百円玉というのは極めてグレーな存在なのである。


 だが、これを交番に届けるのは、少し気が引けた。交番に入るということ自体ハードルが高く、五百円玉だけを渡すということも相まって、やはり現実的ではない。


 ならば、ここは放っておいて、他の人に判断を任せてしまえばいい。流石は現代っ子という考え方だ。


 しかし、この額のものを放っておくのは少し惜しい。正直言えば、拾ってしまいたい。なにせ、月々の小遣いが3000円なので、500円は約20パーセントを占める。すなわち、喉から手が出るほど欲しい。


 僕は迷った。このまま放っておくか、ポケットに入れて罪悪感に苛まれるか。


「そうだ。あそこに行こう」


 脳をフル回転させた結果、向かった先は神社だった。

 

 僕はその五百円玉を賽銭箱に投げ入れる。


 パンッパンッ


 二礼二拍手一礼。僕は落とし主(と自分)が幸せになりますようにとお願い事をした。


 これが、五百円玉を拾った時の最適解かもしれない。我ながら感心してしまう。


 そして翌日、僕は道端で百円玉を拾った。

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道端の五百円玉 えのき @enokinok0

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