現・潺・花・簪の夜
弦冬日灯
現が教える秘密の言葉
鬱。
この世界に色をつけてあげるとすれば、黒。
あー嫌だ嫌だ。毎日が嫌で仕方がない。いっその事死んでやりたいくらい。
だけどそれができないことが、さらに嫌。私が死んでも誰も悲しまないだろうけど、私自身が悲しめない。私があこがれているのは悲劇のヒロインであって、醜い格好の死体じゃない。どっちにもなれっこないのが、悲しいことながら現実を思わせる。
特にやることもなく、こうして今日という一日を腐らせていくだけ。この行為にどれほどの意味があるかなんてもちろん誰も知らないわけだし、だからこそ今も布団にくるまって、一日五十回のツイートができているわけだし。
私の髪が何色かなんて、多分だけどだれもわかんないよね。だって、誰にも知らせていないし、誰にも見せても見られてもない。ピアスの穴が何個空いてるかとか、虫歯は何本あるかとか、足の爪の長さとか、誰も、何も知らないんだよね。これの全ては、私だけが知っている。私だけのもの。
なんて言っていても、私の体は生に縋りついている。私は拒否しても、脳が勝手に信号を送る。それは腕に足に体全体に、意味のない信号を送りつける。
そんな私の腹の虫が泣く。今は何時だろ。スマホを見れば時間なんて一発KOなんだけど、そのスマホが見つからない。さっきまでツイッターしてたのに、どこに行ったんだろ。
布団の中を探す。うーん、ない。私の足しかない。私の胴体から足にかけてしか見えない。
布団の隣を探す。うーん、ない。あるものを言っていけばキリがない。だけど、スマホはない。
どこにやったっけ。本当にわからない。頭の中の記憶から、スッポリと何かが欠落した気分になっている。こういう時は、スマホに関しての一番最新の記憶からたどっていくのが最善手。
えーと、たしかー……あれ?何も思い出せない。おかしい、おかしい。何一つ思い出せない。
記憶がこんがらがっている、ほどこうとしてもほどけない。頭ののかが空っぽになっていく感覚がする。あれ?何だろう、この感覚、この現象。
他の事を考えようとすると、あれもこれもとどんどんと忘れていく。手ですくい上げた水のように、私の脳内からどんどんと落ちていく。
あれ?あれ?あれ?
「なんだろ、これ」
どんどんと、消えていく。
もう思い出せない記憶に、私は涙を流すしかなくなっている。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん。
本当にいたかどうかすらわからない家族が、私の中で次々と死んで行く。昨日の出来事、今日の出来事。一年前の私、二年前の私。どんどんどんどん死んで行く。私の中から消えていく。止めようとしても、隙間から出て行ってしまう。
私は誰だろうか。それすらもはや思い出せなくなってきた。そもそも、どうしてこんなことになったんだろう?私は再び、記憶をたどった。
「あ、そうだった」
私はスマホを探していたんだ。
布団の中を探す。
なんだ、あるじゃん。そうだ、ツイートし終わった後、充電しながら寝たんだった。
なんでこんなこと、忘れていたんだろうなぁ。
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