第100話 100話記念 王太子に夏祭りに連れて行って、金色の花輪を作ってもらいました

夏休みは本当に毎日毎日ガーブリエル様との特訓と淑女教育で大変だった。


そんな時だ。久しぶりにガーブリエル様からお休みをもらったのだ。

何でも王都でも、夏祭りがあるそうなのだ。


「えっ、夏祭りですか」

領地でもあった。その時ばかりは田舎の領地にも夜店も出て、大変な賑わいになるのだ。


「久しぶりにゆっくりしてくれば良い」

「ゆっくりですか。でも、エルダもイングリッドも領地に帰っていますし、一緒に行く人はいな・・・・」

「何言っているのアン。俺がいるでしょ」

後ろからいきなりぬっとフィル様が現れた。


「フィ、フィル様」

私は驚いた。

「何言っているのかな。君は俺の婚約者だろう」

その言葉にむっととしてフィル様が言うんだけど。王太子殿下と祭りに行くなんて良いのか?



「ということで、明日は10時に寮の前に迎えに行くから」

そう言われると頷くしか出来なかった。


「まあ、アン、夏祭りは男女の出会いの場だ。くれぐれも変な男に捕まらないように」

「ガーブリエル様。私がいるのだから他の男なんかにアンが出会えるわけはないでしょう」

フィル様が文句を言ってくれる。


「殿下。くれぐれも清い交際でお願いしますぞ」

ガーブリエル様の声にフィル様は仏頂面で無視するんだけど。清い交際ってなんだ? 清くないってどうなるんだろう?


「ガーブリエル様何を言われるんですか」

私が赤くなって文句を言うと、

「ま、若いというのも良いな」

何故か大笑いされたんだけど。




夏休み中は寮にはほとんど人はいなかった。

まあ、人がいないほうが今日は私には都合が良いんだけど。フィル様と一緒に出かけるとなると周りからまた何を言われるかわからないし・・・・。でも、サマーパーティーでフィル様を独占しているからもう皆呆れているかもしれないけれど。昨日は何か緊張してあまり寝られなかった。


時間前に青いワンピースを着て待っていると10分前に赤いブラウスに、グレーのスラックスを履いたフィル様が現れた。いつ見ても見目麗しい。ちょっと派手かなと思うけど、ゲームの攻略対象で、さすが人気ナンバーワンなだけはある。そんな人の隣が私で良いのか? それもこの国の王太子殿下だし・・・・。

婚約者だとはいえども私はもう王女ではないし、単なる平民だ。ブルーノは私の命を諦めていないと言うし。この国には害しか与えないのではないか。


「御免、待たせたね」

「いえ、私もいま来たところですから」

「じゃあ行こうか」

私はフィル様に手を取られて歩き出した。そうだ。今はそんな事は忘れないと。フィル様の手が暖かかった。



街に歩いて降りると、そこかしこに花屋の屋台が出ているんだけど。何か男の人が周りで必死に作っているんだけど。


うちの夏祭りはこんなのはなかったような気が。


「アン、どの花が好き?」

フィル様が聞くんだけど。

「この黄色い花はきれいですね」

確かひまわりの一種だ。このコーナーにはひまわりの種類が色々出ていた。というか、周りには黄色い花しか無いんだけど。何かフィル様の金髪に似ていて華やかだ。


「そうだよね。じゃあこれを中心にして」

フィル様がかごに花を次々に入れていく。


「アン、ちょっと待っててね」

フィル様がそう言うと、会計をしに行った。


本当にすごい花の量だ。遠くには色んな色の花がある。


それと人も多いんだけど。男女のカップルが圧倒的に多い。で、女の人は頭に花輪をつけている人が多いんだけど。そういう趣向なんだろうか。


「ねえ、君、僕の花輪を受け取ってくれないかな」

いきなり男が声をかけてきた。


「いえ、私は」

「俺の連れになにか用か」

戸惑った私の後ろからフィル様が現れて男を睨みつけた。

「えっ、いや、男連れかよ」

男は慌てて逃げて行った。


「本当に油断も隙もないな」

ブツブツフィル様が言っている。


「今日は変な男も多いから絶対に俺から離れたらだめだよ」

フィル様はそう言うと近くの芝生の広場に連れて行ってくれた。


赤いハンカチを出して私を座らせてくれた。フィル様には黄色いハンカチを敷く。


何か、エルダにハンカチは黄色と青に限定されたんだけど、何でだろう。ハンカチって基本は白じゃないの?


そう言ったら、「まあ、白はいいかもしれないけど、煩いこと言うやつがいるかもしれないから、ハンカチはあなたは黄色と青にしておいた方が良いわよ」

そういうエルダのハンカチは銀色とか緑なんだけど。色が違うから流行りの色ってわけじゃないし、エルダのと間違わないようにっていう話なんだろうか? 

「あんたのその鈍いところも好きよ」

私がそう言うとイングリッドに呆れられていた。ちなみに、イングリッドは黒いハンカチが多いんだけど。お葬式じゃないんだからもう少し明るい色にしたほうが良いんじゃないかと思ってエルダに聞いたら、アンって何も判っていないのね、と呆れられたんだけど。うーん、解せない。


私の横で、フィル様が一生懸命、花輪を作っているんだけど。

「私がやりましょうか?」

悪戦苦闘しているフィル様に私が言うと


「ありがとう。でもこれは男が作らなければいけないんだ」

そうなんだ。今日は花輪を男から女にプレゼントする日らしい。周りでは男たちが必死に花輪を作っていた。皆色とりどりだ。何故か自分の髪の色の花輪を作っている人が多い。違うなと思った人はその人の瞳の色だ。


あれ? 考えたら私のハンカチの色ってフィル様の髪の色と瞳の色だ。エルダのハンカチはクリストフ様の髪の色と瞳の色だし、ひょっとしてイングリッドの黒いハンカチってイェルド様の髪の色だった?


ええええ! そうなの? この世界では好きな人の髪の色か瞳の色のハンカチ持つってこと。


私は真っ赤になっていた。


お葬式みたいってイングリッド本人に言わなくてよかった。


でも、このハンカチの色って、ハンカチ出したら本人に好きだって言っているのと同じじゃない! フィル様のハンカチの色も知っている限り赤とグレーだった・・・・ それを思うと私は真っ赤になった。そういうことか。だからエルダが、ハンカチの色限定してくれたんだ。他の色持っていなくてよかった。フィル様になんて言われたことか。と言うか、これってハンカチ出すたびにあなたが好きって言っているのと同じなんだけど。フィル様の前で、ハンカチ出すのは出来たら止めよう。だって私のハンカチって本当に黄色と青以外はエルダに取り上げられてしまったし、母が、布切れでその色のハンカチを大量にくれたんだけど、そういう意味なんだ!


1時間位悪戦苦闘してフィル様が花輪を作る間、私は真っ赤になっていたんだけど。

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