第101話 100話記念2 王太子に夏祭りに連れて行ってもらってランタンに祈りました

何とか1時間でフィル様は金色の花輪を作ってくれた。


「はい、アン」

フィル様は私の頭の上にその花輪をしっかりとセットしてくれた。


「フィル様。ありがとうございます!」

「うん、ちょっと慣れていないから、うまく出来ていないかもしれないけれど」

私がお礼を言うと、少しフィル様は恥ずかしがって、はにかんでくれた。うーん、美形が恥ずかしがるってその様子だけでもう眼福物だった。


「じゃあ、食事に行こうか」

フィル様が私の手を取って歩き出した。


フィル様が連れて行ってくれた食堂はエルダらが連れて行ってくれたおしゃれな食堂と違って本当に街のおばちゃんのやっている食堂だった。


「やあ、兄ちゃん。今日は女の子連れかい。珍しいね。それも花輪をつけているじゃないか」

「女将さん。余計なことは言わなくていいから」

おばちゃんの声にフィル様が釘を刺しているんだけど。やっぱり今日女の子に花輪を贈るのは何か意味があるんだ。まあ、私は一応フィル様の婚約者のままだそうだから、問題は何もないと思うけど。


「じゃあ、定食でお願い」

「そっちの女の子も同じでいいのかい」

「はい、お願いします」

「定食二丁。一つは人参抜きね」

おばちゃんが奥に叫ぶんだけど、フィル様の人参嫌いがここでも、知られているなんて、どれだけここを利用しているんだろう?


「他の奴らと街に出る時に時々利用しているんだよ」

フィル様はそう言うけれど、そこじゃなくて。


「はい、おまちどう」

おばちゃんが持ってきてくれたのは焼き魚定食だった。人参の盛り合わせがフィル様だけほうれん草の盛り合わせになっている。


「フィル様、好き嫌いはダメですよ」

私が言うと、フィル様は諦めたように目を閉じると口を開ける。


「はい、よく出来ました」

そう言うと私は人参をフィル様の口の中に放り込んだ。


「よう、そこのご両人」

「仲がいいね」

周りのおっちゃん連中から声がかかる。


そうだった。人前だった。私は真っ赤になる。


「はいはい、今日は祭だからね。そんなのでからかわない。そんな暇あったらさっさと相手を探してきな」

「たしかにそのとおりだ」

おばちゃんの声にからかった男の人は頭をかいて周りのみんなが笑った。


本当に典型的な街の定食屋だった。


私は久々に庶民の中に戻った気がした。



「どうだった? 定食は」

「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」

私がお礼を言った。今日は全部フィル様がもってくれるそうだ。そういう日なのだと言われたから仕方ないけれど、今度は私が奢ろうと思った。


そして、屋台の出ているところを歩く。人でも多いが、多くが私みたいに頭に花輪をつけたカップルだ。魔道具を売っている出店なんかがあって楽しめた。もっとも本物かどうかも判らなかったけれど。


屋台を冷やかしながら歩いていると美味しそうな匂いがしてきた。


そちらを見ると串焼きがジュージュー音がしていた。


「アン、もうお腹が減ってきたんだ」

「いや、あまりにも美味しそうな匂いがして」

呆れていうフィル様に私は頭を振ったけど。

私があまりにも食べたそうにしていたんだろうか、1本フィル様が買ってくれた。


「はい」

フィル様がその串のまま私の口元にもってくる。


「えっ」

私が戸惑ったが、


「皆しているよ」

周りを見るとカップル同士では食べさせをやっている。

私は恥ずかしがったけれど、フィル様がじっと見てくるので、もうヤケだった。

そのままがぶりと食べる。


「おいひい」

私は食べながら思わず言ってしまった。


その残りをフィル様がかじる。


えっ、これって間接キスだ。

私は止まってしまった。


「はい」

しかし、そのままフィル様が差し出してきたので、私はもう一口食べた。

何か二人で食べ合うなんてとても恥ずかしかったけれど、串は美味しかった。


その後、日が暮れかけた頃、神社にお参りする。


何でも恋愛の神様が祀られているらしい。でも、西洋設定で神社があるのか?

何故神社がある? 本当にこのゲームの設定いい加減すぎだ。


二人でお賽銭を投げて祈った。


「アンはなんて祈ったの?」

「えっ、いや、恥ずかしいです」

私はそう聞かれて戸惑った。


「まあ、これはこれからのメインイベントの前段階だからね」

そうなのだ。この祭りのイベントは最後にランタンを空に飛ばすのだ。

「俺は二度とアンが俺の元からいなくならないようにって祈ったんだ」

フィル様は結構真面目に祈っていた。でも私は平民のアンだし、いつまでもフィル様のもとにいて良いんだろうか? 迷惑かけているんじゃないかと思うのだ。


でも、私も祈ってしまったのだ。出来たらこの時間がいつまでも続いてくれますようにって。




夜になって、河原でフィル様が買ったランタンに火を灯してくれる。

私はその横からフィル様の手付きを見ていた。


「じゃあ、アン行くよ」

皆一斉にランタンを飛ばした出した。


私はいつまでもフィル様と一緒に居られますようにって、ランタンに祈りを捧げたのだ。

祈るのは自由だ。それが叶えられないのが判っていても、私は神様に祈らずにいられなかったのだ。


ランタンがゆっくりとフィル様の手を離れて空に浮かんだ。そして、ゆっくりと空に上っていく。


私達は寄り添ってそれが見えなくなるまでずうーーーーっと見ていたのだ。

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