第17話 王妃様に捕まって釘を差されているところに王太子が現れて助け出してくれました。
ど、どうしてこうなった!
私は呆然としていた。
私は目の覚めるような豪華な部屋に連れてこられていたのだ。壁紙に至るまですべてがキラキラしていて、目の前にはこれまた高価そうなティーカップのセツトに紅茶が入れられて、その横には美味しそうなスイーツが置かれていた。ここまではとても良いことだ。
しかし、しかしだ。その私の目の前には、女性としてこの国で最高位の王妃様が笑って座っていらっしゃったのだ。いや、でも、目は絶対に笑っておられない。
陛下が戻られた後、ガーブリエル様には今度は障壁を教えてもらい、やはりとてつもなく小さい自分ひとりを守れる障壁だけは張れるようになった。その障壁はガーブリエル様が繰り出す攻撃をすべて防いでくれたのだが、ガーブリエル様も手加減してくれたのは間違いないのだ。
さすがに疲れ切って、帰ろうとした時だ。見るからに偉そうな女官に捕まって、ここまで連れて来られたのだった。
「さあ、召し上がれ。王宮の職人が腕によりにかけたスイーツなのよ。もっとも庶民のあなたのお口に合わないかもしれないけれど」
そう言うと王妃様はおほほほほと笑われた。
どう考えてもこれは嫌味だ。別に平民の一学生を捕まえて嫌味を言わなくても良いのに! 私は少し悲しかった。何故私が王国最高峰の女性に捕まってしまったんだろう?
礼儀作法もわきまえていないので、こんなところで王妃様とお茶を一緒になど本来出来るわけないのに。
「さあ、どうしたのかしら。まさか、私の出す物が食べられないとか言うことはないわよね」
「いえ、そのような」
仕方がない。礼儀作法がなっていないと言われそうだが、私はナイフとフォークでそのショートケーキを切り分けて口に運んだ。
「お、美味しい・・・・です」
甘さ控えめのそれはほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。さすが王宮のシェフだ。
こんな状況でなかったら心から楽しめたのに・・・・。
「ほう、庶民なのに、あなたはきれいな所作をするのね」
一応これは褒められたのだろうか。それとも嫌味なんだろうか?
私は傍にエルダか、イングリッドがいてほしいとこれほど思ったことはなかった。何か本当に王妃様の目が怖いんだけど。私は王妃様とは初めてお会いしたはずだ。怒られるようなことは何もないはず。と言うか平民の女学生が、王妃様と会うことなんて本来はないはずなのだ。
もう今日は国王陛下に拝謁するわ、王妃様に拉致されるわ、大変なことになっているんだけど・・・・。
「息子に庶民の学生が付きまとっていると聞いたもので、どのような子か、会ってみたかったのよ」
笑って王妃様は言われた。
そう言うことか。私は悲しくなった。せっかく学園に入ったので、フィル様と少しご一緒したかっただけなのだ。いや、そもそも私は積極的には動いていない。たまたま座った席が王太子殿下のとなりだっただけなのだ。
ただ、王妃殿下としては息子に変な虫がついたらいけないと、釘を刺しに呼ばれたのだろう。
「息子はあなたも知っているようにまだ婚約者がいないでしょう。変な虫がつくといけないと思っているのよ」
「殿下とは席が近いので、たまたま、良くして頂いているだけです」
それ以外は無いと私は言いたかった。
「それなら良いのだけれど、学園皆平等という建前があるでしょう。私が学生の時もそれを勘違いして王子に近付く不届き者がいたのよ」
私はその言葉にムッとした。
「私は平民で、殿下とは単なる友達に過ぎません」
「あなた、庶民のくせに王族の息子を友達というの」
眦をあげて王妃様が言われた。
「そうおっしゃられたのは、殿下です。私は畏れ多いと何度もご辞退しようといたしました」
私もきっとして言った。
「そこの貴方。妃殿下に対してなんて言う口をきくのですか」
王妃様の後ろに立っていた女官が口をきいてきた。
「あなたこそ、何故口を挟むのですか。私は平民とはいえ、今は妃殿下の主客。女官風情が口を挟んで良いところではありません」
「な、何ですって」
私が女官に言い返すと、女官は目くじらを立てて私を睨みつけた。ふんっ、やるならやり返してやる。私が思った時だ。
「あ、アンネ!」
まただ。王妃様が驚いた表情で私を見ておられた。そんなに似ているの? 今日3度目なんだけど。
その時だ。
ダンッという大きな音とともに扉が開けられた。
「母上!」
そこには怒ったフィル様がいらっしゃった。
「何故、アンを連れ込んでいるのですか」
「連れ込んでいるなど、あなたではあるまいし、私は傷つく前に女学生にお話していただけです」
「余計な事は止めていただきましょう」
きっとしてフィル様は言うと私の手を掴んだのだ。
「えっ」
「行くぞ、アン」
私は強引にフィル様に立ち上がらせた。
「お待ちなさい。フィリップ。変な噂の立つ前にさっさと婚約者を決めなさい」
「何を言っているのです。私の婚約者はアンネローゼです」
「な、何を言うのよ。そんな生きているかどうかもわからない娘に」
「何を言われようと、私の婚約者は生死が判るまではアンネローゼですから」
「お待ちなさい。たとえ生きているのが判っても亡国の王女をお前の婚約者になどしておけません」
「亡国の王女だろうが、なんだろうが、契約は契約です。余計なことをしたらたとえ母上と言えども許しませんからね」
「ちょっと、フィリップ」
妃殿下の声を無視してフィル様は強引に私を部屋から連れ出してくれたのだった。
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