第16話 王宮でいきなり陛下に拝謁することになりました
フィル様は王宮の中まで馬車を乗り入れてくれた。そして、遠慮したのだが、迷いやすいところにあるからと魔術の塔まで案内してくれたのだ。
それは王宮の端に聳えていた。高さは100メートルくらいはあるだろうか。下から見上げるのに結構大変な塔だ。
「凄い。バベルの塔みたい!」
「バベルの塔?」
私の言葉をフィル様は理解できなかったみたいだ。しまった、前世の知識だったか。
「いえ、もの凄く高い塔だなと思って」
「そうだね。王宮でも一番高いよ」
私の言葉にフィル様は頷いてくれた。
フィル様は塔の扉をそのままノックしてくれた。
「開いているぞ」
ぞんざいな言葉が返ってくる。
「お邪魔するよ」
フィル様が扉を開けると
「王太子殿下!」
両足を机の上においていた男が慌てて立ち上がった。
「このようなむさ苦しいところにどのような御用で」
男は慌てて聞いてきた。
「ヴィルマル、ガーブリエル様の弟子を連れてきたんだ」
「ああ、なんでも学園の生徒だって言う」
「お初にお目にかかります。アン・シャーリーです」
私はペコリと頭を下げた。
「あ、アンネ」
ヴィルマル様が私を見て固まってしまった。
「えっ」
まただ。そんなに隣国の王妃殿下に似ているんだろうか?
「あ、すまん。昔知っている人によく似ていたもので。魔導師団長のヴィルマルだ。末尾がeのアン、宜しくな」
「えっ」
ヴィルマル様の言葉に固まってしまった。末尾がeだとは折角言わなかったのに!
「アンさん。おそらく王宮中には広まっているから。ま、皆覚えてくれるから良いんじゃない」
フィル様が聞きたくない一言を言ってくれた。ガーブリエル様の前で言うんじゃ無かった。私は後悔した。
「じゃあ、アンさん行くね」
「ありがとうございました」
私は頭を下げた。
「ヴィルマル、後は宜しく頼むよ」
「はい、おまかせを」
ヴィルマル魔導師団長は仰々しく殿下に敬礼していた。
「では、行くか」
何故か魔導師団長が自分のほっぺを思いっきりしばいて気合を入れているんだけど、何故に?
魔導師団長は奥の部屋の前に立つと
「ガーブリエル様。時間ですよ」
総大声で叫ぶと扉を開けた。
「ええい、煩い! 今良いところなのじゃ」
奥からガーブリエル様の怒り声がすると同時に爆裂魔術がヴィルマル師団長を襲った。
障壁を張って必死にヴィルマル師団長は耐える。
ええええ! ガーブリエル様を呼ぶのも命がけなの?
私は真っ白になった。
「何じゃ」
それからしばらく経って怒り顔でガーブリエル様がやっと外に出てこられた。
「我が師、新しいお弟子さんが来られたんですけど」
ホッとした顔で師団長が指摘する。
「おお、そうじゃった。忘れておったわ」
「ガーブリエル様。私を殺すつもりですか」
起こって師団長が言う。
「あんなのでは貴様は死なんじゃろ。おおアン、では参ろうか」
師団長は肩を竦めてくれた。
ガーブリエル様は私を見ると外に連れ出してくれた。
私は慌てて、ついていく。
そこは城壁と塔に囲まれた裏庭のようなところだった。
「あれから火の魔術は訓練したか」
「はい。出よ炎」
私は炎を出した。炎はそんなに大きくはなっていなかった。
「うーん、これが最大か」
ガーブリエル様は腕を組んだ。
「火の玉で城壁を攻撃してみよ」
「良いんですか?」
私は戸惑った。城壁に穴があかないか心配だったのだ。
「儂が障壁を張っておる。問題なかろう」
「判りました」
私は頷くと構えた。
「出よ火の玉」
そう叫ぶとまた小さい火の玉が生まれた。
「うーん、これも本当に小さいの」
感心してガーブリエル様がそれを見る。
それはポヨポヨと揺れながらゆっくりと飛んでいった。
「うーん、これが本当にあんな爆発を起こしたのか?」
ガーブリエル様は顎を押さえて見ている。
うーん、私にも信じられないんだけど。
しかし、次の瞬間火の玉が城壁の手前の何かに触れた。おそらくガーブリエル様の張った障壁だ。
その瞬間閃光が放たれた。
ドカーン
凄まじい爆発が起こる。
城壁が爆発で揺れた。
私たちは呆然と見ていた。
ガーブリエル様の障壁は完璧だったみたいで、城壁はびくとも傷ついていなかった。私はホッとした。
「な、何事ですか」
魔導師団長が慌てて飛んできた。
「いや、ちょっとな。アンに火の玉を出してもらったのたじゃ」
「あ、あの倉庫を一撃で破壊したというあれですか」
魔導師団長も知っているんだ。私はなんか憂鬱になった。
「しかし、魔術を習いだして1日目でやったんですよね。末恐ろしいお弟子さんですな」
師団長が首を振って私を見た。ちょっと、化け物みるみたいに見ないで頂きたいんですけど!
「魔術師団長!、何事ですか?」
「ああ、何でも無い。ガーブリエル様の実験だ」
「そうですか」
飛んできた騎士たちに慌てて魔術師団長が手を振る。
「どうしたのじゃ。また、ガーブリエルのいたずらか」
そこへ、高位貴族らしき一団がいらっしゃった。皆と違う制服の騎士が10名以上囲んでいる。
余程偉い方なのだろう。
「へ、陛下」
騎士団長が慌ててその場に跪く。
えっ、陛下って、国王陛下のことなの?
私も慌てて跪いた。国王陛下にお目にかかれるなんて平民では普通一生涯無いことだ。
「これはこれは、陛下。このような寂れた所までどのようなご要件で」
さすが大魔術師のガーブリエル様だ。国王陛下を前にしても平然としておられる。
「貴様が、珍しく弟子を取ったと聞いたからの。気になって参ったのだ。今の爆発音はその弟子か」
「左様です。我が弟子、アン・シャーリーです」
「アン・シャーリーと申します」
私は頭を下げたまま言った。
「ほう、赤い髪の魔術士か。面をあげよ」
陛下が言われた。
おもてを上げる?ってなんだろう?
「アン、顔を上げてみよ」
ガーブリエル様に言われて私は顔をあげた。
陛下はフィル様と同じで金髪碧眼だった。メチャクチャ渋いオジサマって感じだった。私はちょっと見とれてしまった。
「あ、アンネ」
でも、そこで思わず陛下が漏らされた言葉はまた、亡くなられた隣国の王妃殿下の名前だったのだ。
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