第12話 亡国の王妃と間違われました
そして、イングリッドと友達になって、教室に向かった。
今日から授業開始だ。
今日の朝一番は、地理の授業だ。隣国スカンディーナ王国についてだ。
スカンディーナ王国は緑豊かな国で、規模はこの国よりも一回り小さい。15年前に政変があり、今の女王になった。王配が、摂政となり、政務を取っているらしい。その時の王子が逃走して、王国の一部を占拠、独立、新スカンディーナ王国を興している。ちょっと政情が不安定な国なのだ。
そうか、15年前にすでに政変があったから、アンネローゼ様は婚約者になれなかったんだ。15年前というと1歳になるかならないかだ。王女が生きているかどうかはこの教科書にも載っていなかったからよく判らない。こういったところがなんかゲームと違う。この世界もまた現実の世界なんだと実感できた。
スカンディーナ王国には我が国からは鉄製品や魔道具を輸出しており、スカンディーナからは小麦を輸入しているらしい。教科書を見るとそう書かれていた。
「とても良い国よ」
って母さんが言っていたから、きっと素晴らしい国なんだろう。いつかは行ってみてもいいな。
私は外の桜を見ながら思った。
教室の先生を見るとどうしても視界に入いるフィル様に気が向いて集中できない。フィル様はあんなことがあった後でも、私に優しかった。私がエルダやイングリッドなら恋していたと思う。でも、私は彼女らと違って平民だ。私が恋する訳にはいかない。でも、どちらがお相手になっても、お似合いのカップルになるのは確実だ。えっ、ひょっとして私、未来の王妃様の友だちになったってこと?
それって凄いことじゃない!
そう、私はよく物思いにふけってしまうのだ。今もそうだった。
私は後ろから鉛筆で突かれて現実に返った。
「えっ」
慌てて顔をあげると皆がこちらを見ていた。
「シャーリーさん。我が国がスカンディーナ国へ輸出しているのは何ですか」
地理の先生が怒っている。でも、それは丁度、教科書を読んだところだ。
「はい。鉄製品と魔道具です」
「そうですね。よく、外を見ながら、こちらを聞いているなんて器用なことが出来ますね」
「すみません」
先生は嫌味を言うが、そこは謝って流すしか無かった。
エルダが親指あげてくれるんだけど、何のマークなんだろ?
「では、スンドグレーンさん。その国の摂政殿下の名前は」
「ブルーノ・カッチェイア様です」
さすが王太子の側近、付近の国の現状もよく掴んでいるんだくらいにしか私は思わなかった。この男と私が深い因縁があることをこの時は知らなかったのだ。
次は近代史の時間だった。
折しも丁度、スカンディーナ王国についてのことだった。
「皆さんは、歴史上のことだと思われるかも知れませんが、私も20年前はこの学園の生徒でした。そして、皆と同じようにこのAクラスに在学していたのです。そこには後にスカンディーナ王国の王太子殿下に嫁がれて王妃になられた当時はスカンディーナ王国の伯爵家の令嬢アンネ様がいらっしゃったのです。
赤髪のとても綺麗な方で、よく見とれていたものです。そう、丁度そこの君のようによく授業を聞かずに、外を見て・・・・」
私は後ろのバートから鉛筆で突かれて慌てて前の先生を見たのだ。
でも、先生は私を注意するどころか固まっていた。
「アンネ様」
「はい?」
私を見て先生が呟いたのだ。
「いや、ごめんなさい。余りにもよく似ておられたので、見間違ってしまいました」
先生は慌てて、授業を続けだした。
えっ、似てたって、そのスカンディーナ王国のアンネ様と? 平民の私が? 私はそんなのはありえないと思ったのだ。
「凄いじやない。アン。亡国の王妃様と間違われるなんて」
授業の後でエルダが言ってくれた。
「本当に! あなたそれだけ高貴さが溢れているのだわ。どこかの公爵令嬢と違って」
イングリッドがエルダを横目に余計な事を言う。
「何言っているのよ。ケーキ2個も食べてお腹を壊したどこかの侯爵令嬢と違ってでしょ」
二人は言い合いになった。この二人、本当にこの国の大貴族の娘なんだろうかと疑問なんだけど!
「うーん、単に外を見ている後ろ姿が似ていただけじゃないの?」
「まあ、そうかもしれないわね」
「本当に、アンは外見過ぎ」
私が言うとあっさりとイングリッドが頷き、それをエルダも肯定してくれた。そんなに簡単に頷かれるとそれはそれでショックなんだけど。
「そう、俺がどんだけヒヤヒヤしたことか」
後ろのバートが言ってくる。
「ありがとうございます。何回か教えて頂いて」
「おい、また敬語になっているぞ」
「だって伯爵様じゃない」
「俺は伯爵じゃない! その息子だ。と言うか、公爵令嬢と侯爵令嬢にタメ口聞いておいて、何故、伯爵令息の俺は敬語なの? おかしいだろう!」
「本当よね」
あろうことか、イングリッドが頷いてくれたのだ。
「ちょっと、あなたがそうしろって言ったんじゃない。私はしたくないのに」
私が文句をいうと、
「うーん、今のは聞かなかったことにしよう」
訳の判んない対応をしてくれるし。
おい、無視するな・・・・私が睨みつけるが、イングリッドは全く無視してくれた。
「でも、普通、フィルの横にいたら、フィルの方をじっと見るものなのに、アンは全然だよな」
バートが呆れていってきた。
「そんな事ないですよ。フィルさんの方を見て授業受けたら授業に集中できないから、外見ているんです」
「えええ!、そうか」
「絶対に興味ないからだと思う」
「だって、フィルの嫌いな人参、平気な顔して口に突っ込んでいたしな。なあフィル」
「いや。すいません。本当にその時は家の近所の男の子によくやるのでそのままやってしまって」
私が謝るが、フィル様はなぜか聞いていなかった。なにか懸命に考えていた。
「フィル様?」
私が不思議そうに見るとはっと気がついたみたいで、「えっ、何の話?」
全然聞いていなかったのだ。
「何考えていたんだよ。昔このクラスにいた王妃様のことでも考えていたのか」
「いや、まあ」
「死んだ人間を想ってもどうしようもないぞ」
「いや、だからそんなんじゃないから」
フィル様が否定するが、何を考えておられたんだろう?
「ねえねえ、今度は私がフィルの口の中に人参突っ込みたい」
イングリッドがとんでもないことを言い出した。イングリッドもフィル様と仲がいいみたい。
「そんなのいいわけないだろう!」
「えええ、何でアンだけ良い訳。ずるーい」
「煩いこと言うとイェルドに言いつけるぞ」
「す、すみません。私が悪うございました」
フィルにいきなりあのイングリッドが謝りだしたのだ。
「イェルドって?」
「私の兄よ」
「えええ、イングリッドは生徒会長が好きなの?」
私は驚いて聞いた。この二人、お互いにそれぞれの兄を好いている訳?
「ええええ! そんなんじゃないよ」
「じゃあどんなの」
「まあ、良いかなって」
「それ好きだって言うんじゃない」
「まあ、そうかも」
「どっちなのよ?」
やはりそうだ。エルダの反応から見て、イングリッドの兄で、攻略対象のクリストフが好きなのは間違いないし、そのイングリッドはエルダの兄の生徒会長を好いているんだ。それで、高位貴族の令嬢同士がこの一番人気のフィル様を押し付けあっているってどういうことなのよ。
私はイングリッドと言い合うのに大変で、横を見ていなかった。私はこの時、フィル様が私のことをじっと食い入るように見ていたのに気づかなかったのだ。
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