第10話 王太子に思わず嫌いな人参を食べさせしてしまいました

私はそれまで、学園の一部で殿下の横で「末尾がeのアン」と自己紹介した変なやつだと噂されていたみたいだけど、大魔術師様の前でも、そう言って逆らったとんでもない奴だと学園以外にも広まってしまった。特に王宮関係者の間で。


それと土日の午前中に王宮で大魔術師様に訓練させられることになったのだ。


「私に直に教えられて感謝するが良いぞ」

とガブリエルのおじいちゃんは言ってくれたが、そんなの私の休みがなくなるじゃない! と私は不満だった。


「アン、凄いじゃない。ガブリエル様の弟子になるなんて」

「そんなに凄いことなの? よくわからないんだけど」

「だって、ここ20年間、ガブリエル様は弟子を取った事がないのよ」

「ふーん」

あんまり感動していない私を見て皆、何か呆れた顔をしていたけど。


「で、魔力適正は何だったんだ」

アルフが聞いてきた。


「オールマイティって言われた」

「えっ」

「オールマティ? 何だそれは」

アルフが聞いてきた。


「うーん、全てに適正があるんだって」

私は紙を見せた。

そこには『火水土風』と書かれていた。


「さすがに聖魔術はないんだ」

フィル殿下が言われた。

「さすがにそこまでは無いんじゃないですか」

「でも、全属性もちなんて凄いな」

アルフが褒めてくれた。


「でも、ほんの少しずつだけどね」

私は謙遜した。というか、光の大きさは皆の中で一番小さかったんだけど、こんなのでいいのだろうか?何故こんなに魔力が少ないのにガブリエル様の弟子になれたんだろう?


私が終わった時は結構遅くなってしまって、もう外は暗くなりかけていた。

「ヤバイ。食堂が閉まる」

私達はそのまま食堂に向かう。


ええええ! またこのメンツで食べるの?


気付いた時には、皆で座っていた。


うーん、周りの視線がなんか怖いんだけど。


私はハンバーグにした。人参のソテーが乗っている。


フィル様のお皿を見ると魚のフライだった。そちらは見る限り人参が乗っていない。


「フィルさん、人参の好き嫌いは良くないですよ」

私はそう言うと、人参を一切れフィル様のお皿に移した。


「アンさん、なんてことを」

フィル様が呆然としている。



「凄い」

「さすがアン」

「フィル、女の子にここまでされたら食べるしか無いよね」

側近たちは笑って言った。


「アンさん、何か嫌いなものはないの?」

「えっ、私ですか。人参食べられるようになってからは特には」

「それは残念、ほうれん草が嫌いとかは」

フィル様は自分の皿のほうれん草を見て言う。


「それはないですけど」

「まあ、でもお返し」

フィル様は私の食器の上にほうれん草のおひたしを私の上に乗せてくれた。


「えっ、少し多くないですか」

私はそう言うともう一つ人参をフィル様のお皿の上に置いた。


「えっ、ちょっと、アン!」

フィル様は慌てて私に返そうとしたが、


「返品は受け付けておりません」

私はフィル様から自分のお皿を守った。


「うううう」

悔しそうに、フィル様が睨みつけてきた。


「ふふっん。嫌いなものを私のお皿に移そうなんてだめですよ」

「それ自分が嫌いだからってやっていないか」

「そんな事ないですよ、別に人参は普通に食べられますから」

そう言うと私は人参を自分の口に放り込むと美味しそうにもぐもぐ食べる。


「くくく」

フィル様は悔しそうだ。


仕方なしに、人参を細かく切って口に入れる。何か不味そうにしている。


「フィルさん。それくらいの人参ならそのまま一口で食べられますって。大きいまま食べると美味しいですって」

「そんなわけないだろう」

疑り深そうにフィル様が言う。

「だって、ほら」

私は人参のソテーを一個そのまま食べる。


「うーん、美味しい」

私はニコリと笑った。


なんかフィル様が私の顔を呆けたように見ているんだけど、そんなに人参が嫌いなの?

隣の男の子のベンも人参が嫌いで、私がそれを無くさせようとして、美味しそうに食べてみせるとそんな顔をしていた。

それでも、嫌だと言うので、無理やり食べさせていたのだ。


だから、次のフィル様の言葉にも自然と反応してしまったのだ。


「やっぱり、怪しい。アンさんが食べさせてくれるなら食べるけど」

「えっ、もうわがままですね」

私はそう言うと自然に自分の人参をフォークに突き刺すとフィル様の口に持っていったのだ。


「はい、あーん」

いつもの隣の子にやるように・・・・・


フィル様が口を開けて食べてくれた。

でも、その瞬間私は周りからの視線を感じた。


「あ、アン」

エルダが固まっているし。周りの男どもも唖然としていた。


「きゃっ、あの子殿下に食べさせた」

「うっそ」

周りの女の子の悲鳴が聞こえた。私は隣りにいたのが家の隣のベンではなくてフィル様だというのを忘れていた。


「す、すいません。つい、いつも隣の子にしているので」

私は真っ赤になって言った。


「いや、冗談で言ったんだが、まさかしてくれるとは思わなかったよ。もっとしてくれると嬉しいかな」

「と、とんでもありません」

もう私は消えてなくなりたかった。

あああ、私の馬鹿。こんなのがみんなにしれたらもう外を怖くて歩けないじゃない。


でも、こんな事があったのに、皆それを黙っていてくれることはなく、生意気な平民の女が殿下に食べさせをしたと言う噂があっという間に、学園中に広がったのだ。



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