第9話魔力測定をしたらうまく測れなくて大魔術師の御出ましとなりました 

私はエルダと講堂に入った。


そして次の授業は魔力測定だった。1年生全員が魔力の適正と魔力量を計るのだ。水晶の色と光の大きさでみるみたい。これは国民は必ず16歳になる時にやらないといけないと定められていて、学園でなければ町ごとに場所と日時が決められて行われる。聖女はこれで見付かって急遽学園に転入してくるのだ。


まあ私はそんなに魔力はないはずだから気は楽なんだけど。

でもこれって名簿順にやるの?A組だから2番めにやることになるのが少し嫌だけど。

それと食事からそのままこの場所にきてしまったので、私は殿下の傍にいるんだけど、それは絶対におかしいのでは?


まあ名簿の順番と言えば順番なんだけど、何か他の令嬢の視線が怖いんだけど。

この中で私一人が平民だし。


「そんなの私を呼び捨てにしているアンが気にするんだ?」

エルダに言われてしまったんだけど、そう強制してくれているのエルダじゃない。

私は思わずむくれた。


「あれ?アンが怒ってる?」

天真爛漫なエルダが小首を傾げて言ってくれる。私にやらずに殿下にやれ!と私は言いたかった。


「はい、ではA組の人は集合して下さい」

担任の声がした。

私はアルフの後ろに並んだ。


最初はアルフだ。水晶の前に連れて行かれてて、まず、アルフが手をかざす。


水晶は真っ赤に輝いた。大きな光だ。

皆どよめく。


「さすが騎士団長の息子だな」

2階の閲覧席からも感嘆の言葉が出る。今日の午後は1年生だけなのだ。暇な上級生は見学に来ていた。

赤は確か火だ。さすが将来騎士を目指すだけはある。


「アルフ、凄いじゃない!」

私はアルフを褒めた。

「まあな。アンも頑張れよ!」

アルフが手を上げた。


まあ、私はモブだから、ほとんど光らないと思うけど、属性は何になるんだろう?


私は手をかざした。水晶は最初は全く反応しなかった。

えええ! ひょっとして魔力無し?たまに平民にいるとは言われているけれど。


手を引っ込めようとしたときだ。水晶が白く光った。なんかアルフに比べてめちゃくちゃ小さいんだけど。まあ光ったので良しとしよう。


良かった!魔力無しで無くて!

私はほっとした。


でも白ってなんだったっけ?

赤は火でしょ。水色が水で、茶色が土で、風は青だったっけ?


先生が紙に書いて渡してくれるはずなのに、先生方は皆驚いた顔をしているのだ。


「えっ」

私はどうしたら良いんだろう?


私がキョトンとしているのを見て、

「アンさんは、後でもう一度やりますから、取り敢えず戻っていいわ」

「はいっ」

私はよく判らずにアルフの横の席に座った。


「どうしたんだアン」

「よく判んない。白ってなんなの?」

「白か、そんなのあったっけ。故障じゃないのか」

「えええ、やっぱり」

私はがっかりした。そう言えばアルフと比べても光の大きさはメチャクチャ小さかった。


これで魔力無しになったらどうなるんだろう。私は不安になってきた。


次のバートは茶色だった。アルフほどじゃないけれど、私よりも光っていた。


そして、エルダは水色、フィル殿下は大きな青色だった。


「エルダ、凄いじゃない。大きな水色だったわよ」

私は自分のことのようにエルダを褒めた。


「ありがとう。でも、アンの白ってなんだろう」

「いや、俺も見たことはない」

殿下にまで言われて私は不安になった。

さっきの先生方の反応も何か良くないような気がした。


「エルダ。どうしよう。魔力無しで学園から追い出されたら」

「そんな事ないわよ。それに、もしそうなったら公爵家で雇って上げるから」

「えっ、本当に?」

私はホツとした。まあ、母さんは怒るかもしれないけど、エルダのところで侍女やるのも良いかもしれない。簡単なほつれとかは直せるし。


やはりAクラスは優秀なものを集めているみたいで、クラスが下になるほど水晶の光が小さくなっていった。


最も私の光の大きさより小さい子はいなかったけれど。


私はすべての生徒が終わって部屋を出ていったあとも残らされた。

エルダとフィル殿下らが付き合って残ってくれた。


「いつまで待つのかな」

私が不安になって聞いた。


「いや、もうじき来るみたいだよ」

フィル殿下が教えてくれた。


誰かが来るみたいだ。


そこへ、中央の壇上が光る。


そして、そこに人が現れたのだ。転移魔術だ。

私は初めて見た。確かこの国にも転移を使える人は殆どいないはずだ。



「誰だ。儂が研究で忙しくしている時に呼び出した奴は」

そこへメチャクチャ不機嫌そうな白髪のお年寄が現れたのだった。


「ガブリエル様。申し訳ありません。魔力測定に不具合が起きまして」

「その方らで対処できなかったのか?」

「申し訳ありません」

先生や役人が謝っている。余程偉い人みたいだ。


ええええ! そんな大事なの。


「で、その者はどこにおるのだ」

「アンさん」

「はいっ」

ルンド先生に呼ばれて私は前に出た。


「ふーん、この小娘か」

怖そうなおじいさんが私を頭の天辺から足の爪先までジロジロ見てくれた。


私はさすがに固まってしまった。


「よし、小娘。もう一度水晶に手をかざしてみろ」

私は訳がわからず、もう一度手を翳した。


水晶は白く光った。


「ほう、白か。しかし、ちゃちな光じゃの。今にも消えそうじゃが」

そう言うと爺さんは私の顎に手をかけて上を向かせた。


顔に触られて私はムッとした。


「はて、どこかで見たことのある顔じゃの? しかし、顔はありふれた顔じゃが。凡用じゃの。髪は人参のように真っ赤か。白雪姫に出てくる魔女の婆さんのようじゃ」

こ、こいつ、誰だか知らないけど、見ず知らずの人を捕まえて、髪の毛の色が人参ですって! それに、言うに事欠いて私が白雪姫の魔女の婆婆だって! うら若い乙女を捕まえてなんてこと言ってくれるのよ。

私はプッツン切れてしまった。


「煩いわね。見ず知らずの爺さんに、そんな事を言われる筋合いはないわよ」

次の瞬間、爺さんの手を払い除けて叫んでいた。

周りの先生やエルダたちの驚いた顔を見たが、もう関係ない。


「ほお、小娘。この儂に逆らうのか」

「小娘小娘って煩いわね。私には末尾がeのアンって名前があるのよ。アン・シャーリーという名がね」

爺さんの怒り声に私は言い切った。もうどうなってもいいという感じだった。


「アンネ」

でも、爺さんは怒り出さずに、驚愕したように目を見開いて私を見ているのに気づいた。何か目が遠くを見ている。昔を思い出すような顔をしている。


「えっ、アンネじゃなくてアン」

私は思わず修正していた。


「あっはっはっはっ。アンネじゃなくてアンか。小娘、気に入ったぞ」

次の瞬間に爺さんは大声で笑い出した。


「小娘じゃなくてアンです」

「ああ、判った、判った。末尾がeのアンじゃな」

何故か笑いすぎたのかおじいさんが目に涙を浮かべているんだけど。


私が啖呵を切ったこのおじいさんが、この国の大魔術師ガーブリエル様だと知って私は後で驚いた。ついでにいうと何故か私はこのおじいさんの弟子になっちゃったんだけど、何でだろう?

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