114 見られてる
「協会の方ですよね⁉」
ドアを開けて出てきたのは二人の男だった。
二十代後半。もしかしたら三十代になっているかもという男たち。
邪気の黒霧に呑まれていてよく見えない。
ただ、気分は悪そうだ。
「ちょっと、すいません」
魔眼・魔力喰い&遠視で周辺の邪気を吸い込ませる。
貯蓄魔力値の増え方はそこまで早くない。
あ、そういえば。
前回余った貯蓄魔力値は総合制御を50、仮想生命装甲と魔力最大値増加をそれぞれ40に使った。
それで気付いたんだけど、この黒霧、邪気の濃い場所にいると仮想生命装甲が減少していた。
RPGでダメージゾーンに入ったみたいな、モンハンで毒を受けた時みたいな、そんな減り方をしている。減少速度はそこまで早くないけれど、油断しているとサクッとやられてしまいそうだ。
アリスが言うには、仮想生命装甲の減少は破壊される時まで体感的にわかることはないらしい。
不可視の鎧を叩かれているのと同じような状態とか、そういうことだそうだ。
いまさらなんだけど、アリスが仮想生命装甲を上げるのに拘った意味がよくわかった。
生きているのが大事。
生存重視だね。
「え? ふへぇ?」
邪気の霧が薄まって二人の顔が良く見えるようになった。
「あ……」
なんだか見たことがある顔かも?
「タソカレチャンネルの方たち?」
「あ、はい」
「そうです」
二人も邪気で息苦しくなっていたのだと思う。
それが楽になってびっくりしている顔だ。
「ええと……」
タソカレチャンネルのサングラスの人が僕たちの間で指をふらふらさせている。
成人している楢爪さんが霊媒師なのかと思ったのに、僕がなにかしたみたいだし、さらに僕の隣にキレイなアリスがいるしで混乱しているのだ。
「お待たせしました。橋口氏の紹介で参りました協会職員の楢爪です」
楢爪さんが自己紹介する。
「私はあくまでも現状に最適な人材を紹介するのが仕事です。そしてこちらの方がそうです」
「あ、どうも」
ホテルに入る前に「自己紹介は不要」と言われているので僕はただ頭を下げた。
僕が知ってるのに自分が名乗れないのはなんとなく罪悪感があるけれど、楢爪さんが名乗っているので問題ないと思っておく。
「それでは、中に入っても大丈夫ですか?」
「はい」
楢爪さんに確認されて、僕たちは部屋に入る。
ベッドにはもう一人の男性がいた。
タソカレチャンネルの人だ。
帽子の人と一緒に映っている人でMCを主にして、心霊スポットや廃墟にチャレンジしている。
サングラスの人は確か、カメラと編集担当だったはず。
その人が苦しそうに眠っている。
「撮影でこの近くの心霊スポットに行ってからこの調子で」
脂汗が凄くて顔が光っている。
いや……問題はそこじゃないよね。
うん、いる。
ベッドのすぐ側でMCの彼を見下ろしている存在がいる。
ひどく歪んだ人型。
細長くてとても大きな顔。
その顔のサイズに見合った目と鼻と口。
髪の毛はない。
その顔とは真逆を行くように細い胴体と手足。まるで尺取虫で人の胴体を作ったみたいな感じだ。
ぎょろっとした目はまっすぐにMCの彼を見下ろし、大きな口はぽかんと開いてそこから涎が足れている。
床に落ちたそれが邪気の霧を作っている。
でも、霧の発生源はそこじゃない。
まだ他にもある。
いや、発生源から、これが生まれた?
う~ん。
あ、解析を使えばわかるかも?
魔眼・解析もオン。
《呪術に近し》
解析の結果がなんだかあいまいだ。
……あ、そうか。
僕の能力はアリスの能力がベースになっているんだから、この解析もそうだってことか。
でも、呪術には近いのか。
ならやっぱり?
僕の呪術のスキルから来る知識で考えてみても、そうだ。
生物としてありないようなこの形を支えているのは、なんらかの呪術ってことになる。
それはつまり、この黒霧の発生源っていうことになるんだけど。
で、それはどこかというと……。
「あの……そこのバッグの中になにかありませんか?」
部屋の隅に置かれているボストンバッグを指して質問する。
他人様の物を勝手に漁るわけにはいかないものね。
「あ……」
なにか思い当たるのか、帽子とサングラスの二人は目を合わせてからそのバッグを開けて、それを出した。
うん、絶対それだ。
だってもう真っ黒だもの。
あ……。
ベッドの側に立っているナニカが、僕たちに視線を動かした。
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