113 走り屋楢爪


 高そうな車が凄い速度を出している。


「あ、あぶなくないですか?」

「大丈夫よ。うふふ……退魔師協会謹製の交通安全お守りの効果は絶大だから!」


 笑ってる。

 これが噂のハンドルを握ると人格が変わるタイプという奴だろうか?

 パトカーに捕まったら絶対に捕まりそうな速度で夜の国道を駆け抜け、高速に入る。


「さて、そろそろお仕事の話ができるわね」


 まっすぐ走るだけだからとさらに速度を上げながら楢爪さんがクールな声で話し出す。


「ユーチューブにテレビのタレントたちが進出しているのは知っているわよね?」

「ええまぁ」


 うちのテレビは最近購入したし、ゲーム専用だからアンテナにも繋いでいないけど、そういうのはなんとなくわかる。


「その中で怪談なんかのオカルトをメインにしている人たちもいるんだけど……心霊スポット探索なんかをしている人たちもいるのよね」

「もしかして、今回はその人たち?」

「ええ。心霊スポットに行っただけの人なんてそこら辺の寺社で払えてしまうものなんだけれど、今回はね」

「なにか違うんですか?」

「変な物を持ち帰っちゃったのよ」

「変な物」

「後は見て確かめて」

「はぁ」


 ここで霊能者ならすでになにが原因かとかわかるのかもしれない。

 でも僕は霊能者ではないので、そういう勘は働かない。

 仕方ないのでアリスの方を見ると、食べ終わったクーリッシュを口に含んでぶらぶらさせている。

 退屈そうだ。

 そんな姿もきれいで可愛い。

 でも行儀が悪いので没収。


「むう」


 ふくれっ面になったアリスはドーンと僕の膝の上に倒れ込んできた。


「退屈だ」

「ごめんね。あと十分ぐらいで着くから」

「目的地どこですか?」

「□県」

「それって……」


 又隣りの県なんですが?

 え? それなのにあと十分?

 早すぎるんですが。


「さあ、説明終わり! 飛ばすわよ!」

「え?」


 まだ速くなるんですか?


 本当に速くなり、そして十分後には高速を降りて、すぐにホテルに着いた。


「あ」


 なんとなくだけど、高速を降りた辺りで魔眼・霊視をオンにしてたんだけど。

 見えた。

 そのホテルは十階ぐらいの高さなんだけど、上から二階めぐらいの窓から真っ黒い物が溢れている。

 たぶん、邪気だ。


 あそこなんだろうなぁと思いながら楢爪さんの後に付いて行く。

 そのホテルは九階建てだった。

 そして楢爪さんが押したのは七階だった。

 やっぱりなぁと思いつつエレベーターを出る。


「うっ」


 すでに廊下にまで邪気が溢れて来ている。

 それにかまわず、楢爪さんは進んでいく。

 まるで気付いている様子がない。


「楢爪さんって見えないんですか?」

「はい。いまは見えないようにしているのよ」

「見えないように?」

「私の役割は仲介人ですから。私が霊障になっていては話にならないでしょ? だから大体の場合において霊的防御を完璧にしているのよ。そしてその状態の時には、なにも見えないというわけ」

「はぁ……」


 そんなことができるんだ。

 扇谷温泉の時は見えるようにしていたってことかな?

 たぶん、見えていたよね?


「では、この部屋です」


 楢爪さんがノックをすると、バタバタと音がしてドアが開いた。





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