84 モンハン会に向けて


 今日も元気にバイト……は終わった。

 店長さんがひどくやつれていたけれどすがすがしい顔をしていた。

 そしてアリスに感謝していた。

 ということは、あのまむしドリンクならぬオークドリンクを飲んだということだよね?


 そして、すごく効いた、と。


 へぇ、ふうんと思いつつ。食材を買う。

 いや、使わないよ。


 そんなことより!


 明日の土曜に一色と掛井君がモンハンをしにうちに集まる。

 泊まりで。


 なので晩御飯を作るんだけど……。


「なににしようかな?」

「甘いのがいいぞ」

「いま、晩御飯のこと言ってるんだけど?」

「晩御飯が甘いのがだめだなんて、誰が決めたんだ?」

「じゃあ、朝昼はちゃんとしたのを食べる?」

「食べないぞ」

「じゃあダメ」

「むむむ」


 まぁ、朝昼どこかでホットケーキかクレープでも作ろう。

 というわけで粉と牛乳、あとはジャムとか……あ、察したアリスがいろいろとかごに放り込んで来る。そんなに要らないって!


 それにしても晩御飯。

 豚(オーク)肉がたくさんあるから使いたいような。

 でも、他の人に異世界食材を食べさせるのは抵抗があったり。

 でも、さっそく店長に異世界の、しかもオークの睾丸で作ったドリンクを飲ませていたりするし。


 うーん。


「野菜が食べたい」


 思考放棄気味に夕飯のことを考える。


「いつも食べてるじゃないか」

「食べてるけどね」


 カット野菜はもやしとか人参とかが定番だし。

 それ以外が食べたい。


「鍋だ」


 よし、オーク肉使おう。

 覚悟が付いた。

 百体分のオーク肉なんて僕たち二人だと処分に何年かかるのかって話だしね。

 一色と掛井君に協力してもらおう。


 で、なに鍋にするかっていうのが次の問題だけど。


 豚、野菜……。


「豚と白菜の鍋にしよう」


後は鍋のスープをどうするか。

 キムチにしようかな、それともちゃんこか。

 キムチかな。

 キノコもたくさん使おう。


 買い物を済ませてからスーパーを出る。


「カナタ」

「なに?」

「あれ」


 アリスが示した方向はスーパーの敷地から出てすぐのところだった。

 ちょうど街灯の狭間のようになっていて暗い。

 そこで誰かが揉み合っている?


「行ってみるか?」

「まぁ、行くけど」


 その、面白そうなことを見つけたって顔がなければねぇ。


 そう思いながら近づいていくと、女の人が無言でなにかに抗っている。

 なにか?

 手を引っ張られているのはわかるんだけど、なにに手を掴まれているのかがわからない。


 魔眼・霊視をオンにする。


 黒い人型のモノが女の人の手を掴んで、じっと立っている。

 いや、違う。

 女の人の距離がじりじりと黒い人型に近づいている。

 掴んでいる腕の長さが短くなっていってるんだ。


 魔眼・遠視&魔力喰いもオンにする。


 吸い込み開始。

 黒い人型がビクリと震えて、こちらを見た。

 あれ?

 遠視で上方向から吸い込んでるのに僕に気付いた。


「うおお、カナタ、こっち見たぞ!」


 そしてアリス。楽しんでるよね?


「アリス、怖くないの?」

「そろそろ慣れた」

「そっかぁ」


 慣れちゃったかぁ。

 黒い人型はこっちに気付いたけど、何かするよりも早く魔力喰いがそれの全てを吸い取った。

 引っ張られる力を失って女の人がその場に座り込む。


「大丈夫ですか?」

「ええ……ありがとうございます」


 しばし茫然とした様子だったその人は我に返って僕を見た。


「あれ、あなた……」

「え?」

「琴夜君……よね?」

「え、はい」


 誰だろう?


「あ、ごめんなさい。えっと……陸上部で境衣の先輩なの」

「あ、ああ……」


 境衣は一色のことだ。


「さっきのはなんですか?」


 とりあえず、黒い人型のことはわからない振りをしよう。

 実際にわからないし。


「……わからない」

「そうですか」


 知っててもいきなり誰かに話したりはしないかな。


「びっくりさせてごめんね。もう帰るわ」

「あ、はい。送りましょうか?」

「大丈夫、すぐそこだから」


 そう言うと彼女はすぐに去ろうとし、思い出したように足を止めて振り返った。


「ごめんなさい。私、阿方玲(あがたれい)。ありがとうね、琴夜君、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 そう言って去っていく阿方先輩を見送り、僕たちも帰ることにした。






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