81 憑依スライム・アリス&カナタ21


 作戦は決まった。

 というか、これを作戦と呼ぶのかどうかわからない。


「我が結界を張る。それで奴らは逃げられないから、カナタは好きだけ斬りまくれ」


 うん、やっぱり作戦じゃない。


「なに、お前の体はスライムだから死ぬことはない。あまり気負わずにやれ」

「だよね」


 やっぱりそうだよね。

 ずるいけど、それがわかってないと最後の勇気は絞り出せなかったかもしれない。

 扇谷で邪霊相手に正面で戦っていた一色や蓮たち三人組とか、同い年とは思えないぐらいに勇敢だ。


 アリスが魔法を使う。

 改めて数えて百三十七体のオークがいる集落というかキャンプ地というか……その全体を薄赤い結界が覆う。

 近くにいたオークが訝しんで結界に触れると、全身が真っ赤に燃えて、すぐに倒れた。

 その時には僕はもう結界の中にいた。


「プゲ?」

「ブゲゲ!」


 オークのそんな声を聞きながら、神聖魔法・祝福を自分にかける。

 全能力にバフがかかるこの魔法は精神にも効果を及ぼすのでさらに恐怖が遠のく。


「行く!」


 自分の言葉で自分の背を押して近くにいるオークに切りかかり、切り捨てた。

 すっぱりと切れた。

 剣術スキルのレベルが15なのがすごいのか、それともこの剣がすごいのか。

 たぶん、剣の方だと思う。

 運動能力強化で強くなった体。

 戦士が教えてくれる立ち回り。

 剣術が示す切れ味。

 盾術が的確に死角を守る。


 僕の動きをオークは見切れず、僕の剣はやすやすとオークの体を切り裂く。

 剣も鎧も盾も戦いが始まると黄金のオーラのようなものを発し、血脂や返り血で汚れるのを防いだ。

 踏み荒らされて血泥になった地面に触れている靴の部分も汚れていない。


 魔法の鎧なのかな? これって。


「これ、すごいなぁ」


 オークが怯えて向こうから襲って来ないので、立ち止まって一息入れる。


「ブゴアアアアア!」


 その瞬間、離れたところに避難していたオークキングが吠えた。

 キングの吠え声には何か力があるのか、怯えていたオークたちが迷いなく一斉に襲いかかって来る。


「っ!」


 空間魔法・短距離転移。


 瞬間、僕の姿が包囲の中心から離れたところに移動する。並列思考と魔眼・遠視の組み合わせで戦場の全体を把握しているので、安全地帯がどこかもわかってる。


 ていうか、こんなことできたんだ。

 いや、できるだろうとは思ってたけど、咄嗟にできた自分自身に驚いた。

 アリスはあんまり詳しく教えてくれないからなぁ。


 こうしたいっていうことに関して、なんのスキルを取ればいいかは教えてくれるけど、それ以外になにができるのかは「わかるはずだ」と説明してくれない。

 優しいようで厳しい。


 いや……。


「僕、ちゃんと戦うのこれが初めてだよね?」


 扇谷では後方で魔力喰いしてただけだしね。

 うん、絶対厳しい。

 優しいけどね。


 それはともかく。


 神聖魔法・聖撃。


 聖属性のエネルギー弾を大量に放つ。

 包囲していた一方が着弾の衝撃で吹き飛んでいくのを見ながら、僕は次々と神聖魔法・聖撃を色んな所に撃ち込んでいく。

 僕を見つけてオークたちが殺到してくるけど、そのタイミングで空間魔法・短距離転移を使って相手の死角に移動して再び、神聖魔法・聖撃を放つ。

 聖なる爆撃を受けてオークたちが右往左往している。


 そうこうしていると、キングを守っていたジェネラルたちが混乱しているオークたちをまとめるために動き出す。

 よしよし。


 ジェネラルが一体出てきたところで、そこに向かって突進していく。


「っ!」


 他のオークより胴体分ぐらい高いオークジェネラルは、僕に気付き、突進に合わせて手にした巨大メイスを振り下ろす。

 盾を上に向ける。

 メイスが衝突する。

 盾の表面にも黄金のオーラがあるのだけれど、それがまずメイスを受け止める。

 触れた部分で黄金の火花が弾けている。

 降り注いでくるそれに視界を邪魔されながら前に進み、オークジェネラルの足を切る。


「ブガガウ!」


 片足を切られてバランスを崩したオークジェネラルが後ろに倒れていく。

 僕はその体を駆けあがり、硬そうな目の間に剣を突き立てた。

 絶命の感触にいまさらながら体が震える。

 だけどそれに振り回されることなく、僕は空間魔法・短距離転移で移動した。


 そして再び、神聖魔法・聖撃の爆撃。


「ガガーウ!」


 怒りと同様で吠えるキングがさらなるジェネラルを放つ。


 僕は空間魔法・短距離転移で移動し、目的を見失ったオークたちの視線があちこちに動く。

 このとき、僕はオークキングの背後にいた。

 四方をジェネラルで守られていたときには隙がなかったけど、いまは二方向が空いている。

 そこに現れた僕はすっと剣をキングの胴体に突きこみ、傷の内部に神聖魔法・聖撃を放つ。

 内臓をもみくちゃにされたオークキングはそれで絶命した。


 オークキングは自身の支配下にいるオークたちを強化する能力がある。

 オークジェネラルにもその能力はあるけれど、キングの方が強力だから、これで一段階か二段階は、弱くなった。


 さあ、残りは後始末だ。


「どうだ? モンスターをハントした感想は?」

「これ、どっちかっていうと無双ゲーだよね!」


 全部が終わった後でドヤ顔するアリスに僕は言い返す。

 首を傾げられたので、今度やらせようと思った僕でした。





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