78 憑依スライム・アリス&カナタ18


 今日はバイトがないので夕食を済ませたらそのまま異世界。

 夕食は豚丼。

 豚バラを一口大に切って塩胡椒で焼いた後に仕上げでポン酢をかけて味をしみこませる。

 それをご飯にのっけて完成。お好みで刻みネギとか大葉とか海苔とかかけても良し。

 汁物はインスタントの味噌汁。


 うん、美味しい。


 珍しくアリスが文句を言わない。

 念のためにと渡しておいたパンは一つだけだったからさすがにお腹が空いてるのか。

 それとも時間を忘れるぐらいにモンハンにハマったのがそんなにショックだったのか。


「今夜は異世界に行くの止めてモンハンする?」

「いいや! カナタに本物のモンスターハントを見せてやる!」


 スプーンを握りしめて力説するアリスはちょっと可愛い。

 そんなに恥ずかしかったのか。


 食事が終わってお風呂でさっぱり。

 アリスがちゃんとパジャマを着たのを確認してベッドへ。


「今日こそ、モンスターをハントするぞ!」

「まぁ、そんなに慌てなくてもいいよ」


 慌てる理由もないんだし。


 ふっと落ちて「あ、寝たんだな」と思うと異世界。


 僕たちはどこかの砂浜にいた。

 砂浜に打ち上げられた大量の海藻の上でぴょこたんしていた。

 あ、貯蓄魔力値のチェック忘れてたな。


 159400。


 うん、増えてる。

 また今度、スキルを育てないと。

 今度はどうしようかな。


「アリス?」

「ここにいるぞ」


 ちょっと離れたところの岩場からアリスのピンクスライムが現れた。


「それで、ここはどこ?」

「うむ、わからん」

「え?」

「そもそもどの大陸に運ばれたのかもわからん」

「そっかぁ」

「まぁ、転移すれば距離などさほどの問題も……」


 なんて話していると、声が聞こえて来た。


「それで、これからどうするの?」

「どうするもこうするも、やるしかないだろ?」

「金もらったしなぁ」

「ばかばかしい。お金もらったからって義理立てする必要もないじゃん。あたしらだって何回も騙されてるわけだし」

「まぁな~」


 そんな会話だ。

 近づいてくる足音がある。

 なんとなくだけど、人気のないところに移動しつつ相談を始めたという感じだ。

 待っていると、姿を見せたのは三人の男女。


「ん?」


 なんだか、見たことがあるような?

 気のせいかな?


「で、山にいるモンスターってどんなのだったの?」

「言っただろ?」

「言ってないよ。『無理無理無理ぃ!』ってユウジが言ったのしか」

「そんな顔じゃねぇし」

「そんな顔だったし」

「顔なんてどうでもいいでしょ。それで、どんなモンスターなのよ?」

「オークの群れだよ」

「群れ? でもオークでしょ?」

「ただの群れじゃねぇよ。百匹はいた」

「百!」

「ほら、タカシだってビビったじゃねぇか」

「ばっか、そんなのビビるに決まってるだろ。そんなのならリーダータイプも絶対いるだろ」

「いた。ジェネラルは見た。複数だったからキングもいるかも」

「それ絶対無理じゃない」

「だから無理って言っただろ? どうすんだよサオ。依頼受けたのお前だろ?」

「うるさいわね。あの国から逃げるのに旅費がいるんだから仕方ないでしょ」

「でもこれ無理だぜ?」

「前金だけもらって消えるでいいんじゃない?」

「だな、命あっての物種ってな」

「だな」

「決定。逃げよ」

「「おお!!」」


 そんなパーティ会議の後、三人はスタコラサッサと逃げていった。


「最低だ」


 それを隠れてみていた僕は呟いた。


「そうか? 冒険者とか傭兵なんてあんなものだろう」

「そうかもしれないけど」

「連中は生活として危険に接している。だから安全への保険は人一倍神経質になるのは当たり前だな」

「でもそれなら、そういうことを依頼人に告げるのも職業倫理的にただしいんじゃないの?」

「それもそうだろう。だが、やってきた冒険者を逃がさないようにするのも依頼人の立ち回りとして当然だ。つまりはどっちもどっちだな」

「ええ」


 その結論が納得いかない。

 お金を払って仕事をする人がそれを受け取って……それで契約が成立したらちゃんと行う。

 そういうのが当たり前なんだと思ってしまうのだけど、アリスの感覚ではそうではないみたいだ。


「カナタの気持ちもわかるが、あちらの世界での仕事で命にかかわる危険があるようなのがいくつある?」

「うっ、それは……」

「まぁそういうことだ。それで、どうする?」

「どうするって?」

「あやつらを最低というのであれば、カナタの正義感はそれを許さないのであろう?」

「アリス……」

「オークならばちょうど良い相手ではないか?」

「ちょうどよくないからあの三人は逃げたんじゃないかな?」


 それに、あの三人、思い出した。

 ユウジにタカシにサオ。

 会ったのが夜だったから顔はちゃんと覚えていないけどそうだよね。

 名前は聞かなかったけど、異世界で日本人っぽい名前を聞くってことは、そうだよね。

 あの三人、遥さんと一緒にここに来た連中だよね。


「はぁもう……なにやってんだか」


 あの国から逃げる的なことも言ってたよね?

 もしかして遥さんがいたあの国のこと?

 ほんとになにしてんだろ?


「……僕でなんとかできると思う?」

「任せろ」


 スライム姿だけど、アリスが凄く楽しそうに笑っているのが想像できた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る