59 GW騒動記09
温泉がなくなったことにアリスが憤慨し、生活魔法でさっと体をきれいにして終ってしまった。
時間が余ってしまったのでスキルを割り振ることにする。
とりあえず、魔力最大値増加を5から10に。
で、スキルレベルの適正な効果を出すためには総合制御をあげないといけないので10から15に。
で、仮想生命装甲を10から15に。
仮想生命装甲はいざという時に生命力よりも先に消費されるポイントなので大事だ。これが高ければ車にはねられても死ななくて済むかもしれない。
で、こうなった。
【ステータス】
●カナタ・コトヨ 男
●生命力 60/60
●生命装甲 1500/1500
●個人魔力 1200/1200(+1000)
●スキル:魔眼lv08(霊視・魔力喰いlv03・遠視lv03・解析)/個人情報閲覧/総合制御lv15/運動能力強化lv05/仮想生命装甲lv15/魔力最大値増加lv10/生活魔法lv10/空間魔法lv10/基礎魔法lv10/魔法応用lv02/神聖魔法lv10/変身(スライム時限定)/万能翻訳/魔法陣学lv05/透明化/気配遮断lv01/恐怖耐性lv02
●蓄積魔力値:1000
●加護:なし
「あれ? 個人魔力の素の部分が上がってる?」
魔力最大値増加のレベル分が+1000なのでスキルを抜くと200だ。
ちょっと前まで135だったよね?
「魔力に馴染んできたからだな」
そういえば前に上がった時も使った時だったかな。
でも、その時よりも上がり方が大きい気が。
「空っぽになるぐらいに使った方が成長する?」
FF2方式か?
「馬鹿なことを考えるな」
「はい」
ギロリと睨まれてしまったのでこれで終了。
その後、身支度を済ませて一色たちと合流することにする。
彼女たちはすでに部屋を出ていたのでロビーでの待ち合わせとなった。
缶コーヒーを飲んでいた二人の所に向かう。
「ごめん、お待たせ」
「いいよ、君はちゃんと仕事をしたんだから」
と紅色さんが言ってくれる。
見れば、昨夜穴が空いたガラスの部分は段ボールとガムテープで穴を埋めていた。
「ていうか、協会の結界師が数人がかりで構築した結界の上からより強力なのを張ったでしょ? 小舟ちゃんが物欲しそうな顔でかな君を見ているぞ」
「ええ」
紅色さんの冗談かと思ったけど、ふと気が付いて振り返ると受付カウンターのところでノートパソコンを開いてなにかしていた楢爪さんがこっちを見ていた。
気のせいか、その視線がとても情熱的な気がする。
あ、手を振って来た。
とりあえずぺこりと頭を下げておく。
「まぁ、小舟ちゃんの猛烈スカウトが発動するのは進路の話をする頃からだから来年ぐらいまでは大丈夫だよ」
「はぁ」
「ただ、その場合、授業料+高級マンションの家賃ぐらいは勝ち取ってきてあげるからね」
「授業料って?」
「つまり、高天神大学への入学から卒業までお世話して、退魔師協会幹部コースっていうエリート路線のご招待ってことだよ」
「うわぁ」
「まっ、この道に誘っちゃったのは私だから、ちゃんとサポートするよ」
「その時は、お願いします」
まだなんともいえないけど、とりあえず頭を下げる。
「まっ、そんな未来の話はともかくとして、とりあえずはいまのお仕事の話をしようか」
紅色さんがテーブルに地図を広げる。
「神扇温泉にはここを入れて六つの温泉旅館とかホテルがあるんだけど、その内一つの浄化を私たちが担当する」
山に囲まれた扇状の土地が描かれた地図に五つの赤い丸と住所が書かれている。
そこに旅館があるらしい。
試しに地図アプリにその住所を入れるとちゃんとその場所は示されるけど、ストリートビューは表示されなかった。
「昼の内にしないんですか?」
ロビーには他にも人がいる。
見れば玄関の前に昨日はなかったバンが数台並んでいる。
いまも一台やって来て、中から昨日ここで見た人たちが降りて来た。
下見を終えて戻ってきたのだろうか。
「そっちの方が安全のような」
「そうだね。昼の内は雑霊悪霊の動きは鈍くなる。なぜだと思う?」
「なぜって……明るいから?」
「まぁ正解。だいたいどの国でも太陽っていうのは人間の味方という神話があったりする。その光が注いでいる内は人間を害する存在の動きは鈍くなる。……まぁ、霊の元が人間だった場合限定だけどね」
人間以外の霊にはダメなんだ。
「そもそも光には浄化の力があるからね。人間以外でも基本は太陽の下ではあまり動けない。だから、暗いところに逃げているんだ」
「はい」
「そういう巣穴を見つけられているならいいけどね。悪霊の巣穴ってこれがなかなか見つけられない。雑草の根みたいにしつこいからね。それなら巣穴から飛び出してくる夜の内に倒す方が手っ取り早かったりする」
「なるほど」
「それに、今回、ここに呼びだされているのはそういう、はしゃいでいる連中を倒すのが得意な連中が多いんだ。そういう連中でこのGW中に数を減らして、その後に土地の浄化が得意な連中で時間をかけてきれいにしていく。そういう流れなんだよ」
紅色さんの説明に納得した。
「さて、じゃあそろそろ下見に行こうか」
紅色さんが地図を折りたたんで立ち上がる。
僕たちもそれに従い、外で待っているバンに乗り込んだ。
運転手は別にいる。
バンは扇状の土地の中で一番奥にある旅館に到着した。
「ここは扇谷の地で最初にできた旅館だね。
バンは少し離れたところで停車し、僕たちは川に沿って歩いていく。
かつてはきれいに舗装されていた道もアスファルトが割れて木の根が覗いたり雑草が生えて来ていたりして、車が走れる状態ではない。
ここまで来るのも結構大変そうだった。
旅館は橋がかけられた向こうにあった。
人が歩くための木造の橋と、車が通るための頑丈そうな石造りの橋の二つがある。
石造りの橋を選んで旅館の敷地に入っていく。
橋を抜けて左側が駐車場で右側に旅館の入り口がある。
旅館に向けて歩いていくとギリギリで自己主張できている玉砂利と飛び石の導きに従って旅館の入り口に辿り着く。
和風の建築物が自然に呑まれながら存在している。内庭にある立派な松の木が立派に育ち過ぎて二階の窓の一部に枝を突き刺している。
「ふむ」
「ううん」
入り口を見上げて紅色さんと一色が唸っているので、僕も魔眼・霊視をオンにする。
「おおう」
外側はただの廃墟だけど、壊れた玄関の奥、あちこちにある窓の奥……旅館の中は見事に真っ黒だ。
光が届かないとかじゃない。
いつもの黒い靄で満ちている。
「これはなかなか手がかかりそうだ」
「うん」
二人はそんなことを言っている。
黒い靄は旅館の中にみっしり詰まっている。
だけど、昨日の夜に僕たちを襲ってきたような悪意のようなものを今は感じなかった。
「これって、いま吸ったらどうなるかな?」
なんとなくだけどそう言ってみた。
アリスに言ったつもりだけど、もちろん二人にも聞こえている。
ばっと、二人が僕を振り返った。
「えっと……やってみようか?」
藪をつついて蛇を出すになるかな?
でも、どうせ蛇は出さないといけないわけだし?
問題ないんじゃないかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。