58 GW騒動記08


 GW二日目。


「魔力不足だ。バカタレ」


 目を開けて即見えたアリスにそう言われてしまった。

 ここは?

 旅館の自分の部屋?


「スキルばかりでかくして自分の能力をあげなかったらこういうことになる」

「……でも、消費魔力の説明がないから」


 寝起きながらも思わず言い返してしまう。


「使用する魔力は一定ではない。魔法そのものの難度、習熟度、使用状況、使用範囲……様々な要因に左右される。覚えたての高難易度魔法を初披露であんな広範囲に展開させれば魔力を使い切って当然だろう」

「そっか……」

「しばらくは仮想生命装甲と魔力最大値増加を鍛えるようにな」

「うん。ええと、それで……」


 お説教されている間に気付いた。

 僕はちらりと頭を上げて、玄関の方を見る。

 ちょっとだけ開いた障子の隙間から一色と紅色さんが覗いている。


「……どういう状況?」

「ふん」


 アリスは鼻を鳴らして答えない。


「なんで? なんでこの障子開かないの?」

「うあああああ、彼方。彼方を介抱する~介抱するんだ~!」

「二人とも、なんか怖いんだけど」

「ああ! かな君が目を覚ました!」

「うう、よかった。よかった!」


 障子の隙間で二人がその場で崩れ落ちるのが見える。

 だから怖いって。


「ん? もう朝?」


 見回して、カーテンの隙間から光が漏れているのが見えた。


「あれからどうなったの?」

「知らん」

「え?」

「我はカナタを部屋に運んだからな。その後のことは知らん」

「そっか……」


 ん?


「もしかして、寝てない?」

「…………」

「ごめん、心配させたね」

「ふん」

「ちょっと待っててね」


 僕は起き上がると障子の隙間から覗いている一色と紅色さんの所に向かった。


「心配おかけしました」

「かな君、無事でよかった!」

「彼方、大丈夫⁉」

「うん、ちょっと不用意に強い力を使ったのが原因みたいだから。もうちょっと寝てれば大丈夫なんで、二人も休んでてください」

「そ、そう?」

「一緒にいようか?」

「大丈夫です。それじゃあ」


 トンと、障子は閉まった。

 そうすると向こうの音まで聞こえなくなる。

 きっと、アリスの魔法の力だ。


「さて、これでもう大丈夫。一緒に寝ようか」

「む」

「どうしたの?」

「……我がなんとかせいと言ったからカナタはああした。それなのに……」


 ああ。

 アリスは責任を感じているのか。


「大丈夫だよ。アリスはちゃんと僕のことを考えてくれているって知ってるから」

「カナタ」

「だからもう、休もう」

「うむ」

「目が覚めたらご飯を食べて、仕事の時間までにもう一回温泉に入ろう」

「そうだな」


 そう話してから、二人で部屋にある浴衣に着替えてから寝た。


 目が覚めてスマホを確認するとちゃんと動いた。

 時間はちょうど十三時。

 ラインに通知があったので確認すると一色からで、玄関に食事を置いているということだった。

 障子を開けてみると仕出し弁当が二つとサンドイッチとおにぎり、それからお茶のペットボトルが袋に入れられて置いてあった。

 サンドイッチとおにぎりが朝食で出たのかな?


「アリス、ご飯にしよう」

「むう……そんなの食べたくない」

「はいはい」


 とりあえず僕の分だけ出して、残りは空間魔法で収納しておく。これなら後で僕が食べれば済む。美味しいしね。

 今回は初心に帰ってミニスナックゴールドを出す。


「うむうむ。やはりこれも捨てがたい美味さだ」


 白いものが顔に付くのも構わずに齧りつく。

 僕もおにぎりとサンドイッチだけにしておく。

 食べながら一色に返信をしておく。

 一色からすぐに返信が来た。


『仕事は夜からだけど下見に行くつもりだから行けるなら~~』


 色々と心配する内容の後にこの文章が付いていたので一時間後に合流の約束をする。

 食事が終わってから寝汗を流そうと露天風呂に向かうと、湯出し口のお湯は止まり、湯船には水しか溜まっていなかった。


 どうやら幸運の時間は終わったみたいだ。




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